Focal Point

ガラパゴス化したERPから脱出のチャンス

2025年に迫る「黒船」とは

 

日本TCS 常務 エンタープライズアプリケーションサービス統括本部 統括本部長 真下和孝

ERP(統合基幹業務システム)を導入している企業は少なくない。大企業はもちろん、クラウド型のパッケージなども登場したことから中小規模の企業でもERPを利用するケースは増えている。ところで、そのERPは、ビジネスの成長を後押しするものだろうか。かえって成長を妨げるものになっていないだろうか。改めてそう問われると、ERPを導入している企業の経営層や業務部門の責任者であっても、なかなか明確な答えを出しにくいかもれない。

 

今後のビジネス運営に「ガラパゴス化したERP」が対応できるか


ERPの歴史は古く、1990年代ごろから大企業を中心に導入が始まった。当時は抜本的な業務改革を目指すBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)とセットになって、ERPが広まっていった。その後、2000年代に入ると会計制度の大規模な変更のいわゆる会計ビッグバンがあり、さらにERPの導入は進んでいった。

当初は業務改革のツールとして認識されていたERPだが、次第に目の前のプロセスの効率化や費用削減、会計制度への対応といった課題の解決を迫られていった。すなわち、ERPの中心的な用途はバックオフィスの業務効率化など、企業の普遍的な業務に集中し、その枠組で一定の成果を上げてきた。しかし、こうしたERPの使い方は、その本質を理解しているとは言い難い。ERPは本来、BPRによって業務改革を実現するためのツールとして、業務のプロセスを見直して企業の競争力を高めることが目的だった。ところが、単なるバックオフィスの業務改善ツールとしてだけ使われて、競争力を高めるという目的を忘れた使い方が多くなってしまったのだ。

さらに日本ではERPの導入、適用に大きな問題があることが、ERP導入から20年といった時間が経った現在になって明らかになってきた。それは、「ERPのガラパゴス化」である。日本企業が導入しているERPは業務改革を実現するためのツールでなく、逆に業務をブラックボックス化させて改革やグローバル展開の足を引っ張ることになりかねないのだ。ERPのガラパゴス化とはどのようなことを指すのだろうか。

 

業務プロセスを変えずにアドオンを大量発生させてしまった日本のERP


「日本で1990年代から導入されてきたERPの多くは、いくつかの課題があります」。こう指摘するのは、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS) 常務で、エンタープライズアプリケーションサービス統括本部 統括本部長を務める真下和孝だ。「1つは、ERPの理解が不足したままで導入され、長年運用されてきたことです。もう1つはビジネスプロセス改革が不徹底で、ERPの効果を十分に引き出せていないことです。ビジネスプロセス改革が徹底できなかった要因には、日本ではビジネス部門の声が強いこと、また、ボトムアップ型のアプローチが取られたことで、BPRを題目にしたERP導入であってもビジネスプロセスを変えられなかったことが挙げられます」。

 

真下は日本TCSにおいてSAP、Oracle、Infor、Salesforce.comなど、ERPを中心としたパッケージ製品のサービス部門の責任者を務める。その経験から真下は「日本企業はERPを導入するとき、既存のビジネスプロセスを見直すことなく、追加プログラムであるアドオンをたくさん作ってしまいました。こうしたアドオンがたくさんあることで、グローバルに展開しにくい“ガラパゴス化”につながってしまったのです」と語る。

日本独自のニーズに対応するために作ってしまった数多くのアドオンはアップグレードをする際、それぞれ検証しなければならず業務の負荷が高くなり、システムの拡張性、ましてやビジネスそのものの機動性にも影響を及ぼす――。これでは、ERPによって企業の競争力を高めようという根本的な考え方に逆行してしまう。

しかしながら、一定の成果を残してきたERPパッケージであり、自社のビジネスプロセスに適合させるためのアドオン開発から運用管理まで多額の投資をしてきてしまっていることも事実だ。となると、「ガラパゴス化したERPを一新しよう」という声はなかなか上げにくい。

 

日本のSAP導入企業の半数、11年も――長期利用の真実


事実、「SAPのユーザーグループであるJSUGのアンケートを見ても、50%のユーザーが稼働後11年以上利用しています。長期利用そのものは問題ではありませんが過剰なカスタマイズによるガラパゴス的な部分が多く、ブラックボックス化したERPを使い続けるしかないというユーザーも一定の割合で含まれると考えています」と真下は語る。

海外のグローバル企業の標準的なERP構築のアプローチとして、3層構成を採用することが多い。「会計などはできるだけ共通にします。その上に事業ごとの仕組みで必要な部分を最適化します。さらに各国の規制対応などのローカル要件や、個社要件への対応を行います。こうした3層構成にすることで、ERPをグローバルで展開しやすくするのです。日本のグローバル企業の場合は、日本本社向けにアドオンをたくさん組み込んだシステムを作ってしまい、海外ではそのまま利用できないので海外向けERPを作り直すといった二度手間をかけているケースが散見されます」(真下)。

ガラパゴス化してしまっていることと並んで、日本企業の既存のERP利用の課題は、前述したようにバックオフィス業務改善ツールになってしまっていることだ。真下は、この課題を持つ企業の多くで見受けられる利用実態を、「過去を見て過去を分析するERP」と表現する。

日本TCSでは、デジタル化が進展するこれからの時代のあり方として「Business 4.0™」を提唱している。これはビジネスとITが融合し、ITそのものがビジネスの競争力になるという考え方である。そこでは、ERPも競争力の源泉になる。デジタル化されたあらゆるデータを活用することで、将来を予測するERPが実現できるというのである。

グローバル企業におけるBusiness 4.0™の経営変革事例

「ERPでも、これまでのようにコストの側面だけを評価していてはBusiness 4.0™の波に乗れません。競争力を高めるための仕組みとしてERPを位置付け、どれだけの利益を生み出せるのかを考えるようにすれば、投資に対する判断基準が大きく変わっていきます」(真下)

 

2025年問題をERPの「黒船」としてステップアップ


 

今後のERPの方向性、それも「競争力を高めるERP」を考えるときには、どのようなチェックポイントがあるだろうか。真下は「グローバル展開」「リアルタイム&モバイル」「将来の予測」の3点を特に注視すべきだと指摘する。

「グローバル展開」では、サプライチェーン・マネジメント(SCM)を考えただけでも、どこで作って、どう輸送して、どこで売ると効率的なビジネスができるのかを判断する必要がある。会計も国際基準に対応しなければならない。「リアルタイム&モバイル」では、いつでもどこでもリアルタイムの最新情報をモバイル端末で入手できる環境が求められる。そして、見えない未来を見つめる「将来の予測」を、IoTなどから得られるビッグデータとAI(人工知能)などの最新技術を利用した解析基盤を使って実現する。過去を見てコスト削減するためのERPではなく、未来を予測して競争力を生み出すためのERPに求められる要件がこの3点だというのだ。

こうした新しい時代のERPを構築するとなると、既存のビジネスプロセスからシステムまで、大掛かりな変革が必要になる。その1つのきっかけになるのが、国内でも大きなシェアを持つSAPの「2025年問題」になるのではないかと真下は分析する。「SAPの既存のメインストリームだったSAP ERPやBusiness Suiteは、2025年にサポートが終了します。最新のインメモリ技術を駆使して高速大容量のデータ活用が可能なSAP S/4HANAへ移行するか、他のERP製品に乗り換えるなど別の手段を採用するかといった対応が、2025年までに求められるわけです。残り時間は思ったよりも少なくなってきています」。

SAP S/4HANAは、デジタル時代に対応する新しいソリューションで、以前のSAP ERPのベースとなったECCから実に23年ぶりの刷新となる。しかし、サポート切れを理由に大規模なERP関連システム刷新のための予算を要求しても、それだけでは経営層は投資について首を縦に振らないだろう。2025年問題を契機に、システム部門のあり方からドキュメンテーション、人材や体制までを一新し、会社の競争力向上に貢献するERPを提案することができれば、2025年問題をプラスの意味での「黒船」にすることができる。

Business 4.0™でSAP S/4HANAが求められる背景

日本TCSは、できるだけシンプルな解決法で、競争力を高めるERPの構築をサポートする。「2025年問題をきっかけにしたERPの刷新であっても、複雑なシステムを作ってしまうと新しいガラパゴスを生み出す危険性があります。グローバル展開、リアルタイム&モバイル、未来を予測できるERPをいかにシンプルに作るかといった部分に、日本TCSのノウハウを生かすことができます」(真下)。

その上で、新しくSAPを導入したり、SAP S/4HANAに刷新したりする企業の経営層に対して、こんなメッセージを届けたいという。「内部のビジネスプロセスに合わせるのではなくて、日本も含めた世界中のTCSの知見を集約したベストプラクティスを業界標準として、それに合わせるという判断をしてみてはいかがでしょうか」。Business 4.0™を実現して業界をリードし続けるためには、黒船襲来をきっかけとして、自分たちの仕事のやり方そのものを見直すことが求められようとしている。

2018年8月掲載


 

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