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本格的DX時代に日本のERPはどう対応すべきか

 

日本TCS 常務 エンタープライズアプリケーションサービス統括本部 統括本部長 真下和孝

※本コンテンツは 「ガラパゴス化したERPから脱出のチャンス」の続編となります。是非合わせてごらんください。

 

ERP(統合基幹業務システム)を導入している企業に、決断を迫るときがやってくる。それが、海外はもちろん国内でも大きなシェアを持つSAPの「2025年問題」である。SAPの既存のメインストリームだったSAP ERPやBusiness Suiteは、2025年にサポートが終了する。最新のインメモリ技術を駆使して高速大容量のデータ活用が可能なSAP S/4HANAへ移行するか、他のERP製品に乗り換えるか。いずれにしても、2025年までに新しいシステムへの移行を完了させなければならず、そのための決断を下す時間は少ない。SAP S/4HANAへの移行のメリットはどう考えたらよいか、どのような対応が求められるのか。

 

従来型のERPからの脱却とDXへの前進


SAP S/4HANAは、デジタル時代に対応する新しいソリューションで、以前のSAP ERPのベースとなったECCから実に23年ぶりの刷新となる。それだけに、アーキテクチャの大幅な変更に伴い、ユーザー側でもこれに合わせた大きなシステム変更が求められる。一方で、SAPのユーザーグループであるJSUGのアンケートを見ても、S/4HANAへの移行について「2020年までに移行する予定」と直近の施策を決めている企業はわずか3.5%、タイムリミットの「2025年までに移行する予定」の企業が12.4%で、これらを合計しても約16%しか具体的な計画が立っていない。「検討中であるが、いつ移行するか決めていない」企業が46.5%、「まったく検討していない」企業も37.6%に上る。

日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS) 常務で、エンタープライズアプリケーションサービス統括本部 統括本部長を務める真下和孝は「SAPの2025年問題に対して、まだ7年あると考えている企業が多いようです。しかし、実際にはもう7年しか残されていないと考えたほうが良いでしょう。SAPの2025年問題は、ERPや情報システムのあり方を再考するチャンスだと捉え、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進につなげてもらいたいと考えています」と指摘する。

2025年に向けてERPの刷新を考えるときに、2つの視点を持つことが大切だ。1つは、国内企業がこれまでのERP利用で陥りがちな「ガラパゴス化したERPからの脱却」である。ERPを導入しながらも、自社の特殊事情や現場に合わせ、業務プロセスを標準化しないままアドオンを多く組み込む。こうして生まれたグローバル展開しにくい“ガラパゴス化”したERPは、既存業務の効率化には貢献できても、新しいビジネスの創造には役立たない可能性が高い。

日本TCS の真下は「2025年まで、もう7年しかない」と既存のSAPユーザーに警鐘を鳴らす

 

もう1つは、「DXプランニング」の視点を取り入れること。ここでは業務システムを、情報の記録を重視した「SoR」(Systems of Record)、顧客などとの関係性を重視した「SoE」(Systems of Engagement)、さらに新しい洞察を得て改革につなげる「SoI」(System of Insight)の3つのレイヤーに整理して考えることが重要だ。国内企業のERPは多くが記録を中心としたSoRのレイヤーにとどまり、一部に顧客対応をアドオンで組み込んだSoEのレイヤーが渾然一体となっているケースが多い。「現行ERPのシステムデザインを根本から見直す“DXプランニング”の視点を導入し、混沌とした状況からERPとその他のソリューションをどのように組み合わせて、3つのレイヤーに適材適所化する方法を考える必要があります」(真下)。

 

“リアーキテクト”で課題解決、3つのポイント


「ガラパゴス化したERPからの脱却」と「DXプランニング」を推進しようとするとき、日本企業はどのように今後のERPの活用を考えたら良いのだろうか。インドのITサービス企業であるタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)と三菱商事の合弁企業である日本TCSでは、「日本企業がERPを有効活用していくには、『グローバル展開』『リアルタイム&モバイル』『将来の予測』の3点に注視すべきです。この3つは、日本TCSが日本企業に向けて価値を提供できるポイントです」(真下)と語る。

 「グローバル展開」は、世界各国に拠点を持つTCSの強みを最も端的に示すものだ。SAPをはじめとしたERPソリューションを提供するにあたり、グローバル標準テンプレートを保有し、その上で各国のビジネス事情に合わせて実践したローカライズの膨大なノウハウをデータベースとして持っている。クラウドプラットフォームも用意しており、ERPのグローバル展開に求められるスピード感にも対応できる。

 「リアルタイム&モバイル」の実現には、「SAP Central Finance」と「SAP Digital Boardroom」を活用したソリューションを提供する。「SAP Central Financeは、SAP以外のシステムの会計データも含めて、あたかもSAPで統一して構築されているかのように即時に収集し、S/4HANAに集約します。その上で、SAP Digital Boardroomによりタッチパネルスクリーンで経営状況をリアルタイムに可視化します」(真下)。また、SAPが提供する新しい標準インタフェースの「SAP Fiori」を使うことで、モバイルに最適化した画面も簡単に生成できる。

戦略的なDXプランニングを推進するSAP Central Financeの考え方

今後の付加価値創出や競争力強化に欠かせない「将来の予測」では、SAPのデジタルイノベーションシステム「SAP Leonardo」を活用したソリューションを提供する。SAP Leonardoは、IoT、機械学習、アナリティクスなどの最新技術をSAP Cloud Platformを基盤として提供し、イノベーションを支援する。「TCSは、SAP Leonardoを用いたソリューションをグローバルで開発、実用化を進めています。すでにIoTとAIを活用した鉄道車両管理から始まり、橋梁の保守、医薬品や医療機器の管理など、幅広いソリューションを提供しています」(真下)。

 これら三つの視点を企業のシステムに取り入れ、どのようにマッピングするのか。また、複雑化しているシステムとビジネスプロセスをどのようにシンプル化していくか。さらに、既存の資産のうち、継続して活用できるものと再構築が必要なものとをどのように切り分けるのか。DXプランニングには、整理すべき課題がいくつも存在する。真下は日本TCSの存在を、「お客さまのDX実現のために、根本的かつ困難な課題にも向き合い、最適な計画立案を支援する“リアーキテクト”を提供するパートナー」と位置づける。

 

DXへの第一歩はS/4HANA活用、3つのオファリングで移行


DXを成功に導くソリューションの核として、日本TCSはS/4HANAの活用を掲げる。これはSAPの2025年問題の解決のためという消極的な理由ではなく、今後の新しいビジネスで勝者となるための積極的な投資として、S/4HANAを活用したソリューションが有効であるとの提案だ。ここでも日本TCSは、3つのキーワードでS/4HANAへの移行のアプローチを示す。それらが「コンバージョン・サービス」「導入サービス」「Central Finance導入サービス」の3つのアプローチである。

日本TCS によるSAP S/4HANA移行に向けたアプローチの特徴

「コンバージョン・サービス」では、既存のシステムをそのまま活かすことを考えるが、それだけでは新しい付加価値を生まれない。そこで、既存システムの周りに新しいシステムを構築して、付加価値を生み出す方法を検討する。コンバージョン・サービスのポイントは、いかにスピード感を高めるかにある。ここで日本TCSが力を発揮するのがインドリソースの活用である。世界中で培った知見を持つ多くのプロフェッショナルで構成する「ファクトリー」を活用し、効率的で確実なS/4HANAへのコンバージョンを実現する。

「導入サービス」では、コンバージョン・サービスよりも一段と進めて、システムの新規導入も含めたソリューションを提供する。“TCSスタータキット for S/4HANA”を最大限活用し、要件定義からテスト・移行に至るまで、システムを容易に構築できる体制と仕組みを整えている。さらにSAPイノベーションラボには、S/4HANAを活用したソリューションを導入した場合のビジネスへの影響をPoC(概念実証)で確認できる環境も備える。

「Central Finance導入サービス」では、既存のERP以外のシステムのデータをあたかもS/4HANAですべて管理、分析しているかのように扱えるSAP Central Finance環境の構築をサポートする。S/4HANAへの全面移行をグローバル展開する際に、実際には全世界で一斉にシステムを更新するのは難しい。過渡期の中間形態へのスムーズな移行と、価値創造や競争力強化といったS/4HANA利用効果の早期獲得の両面を同時に満たすことを支援する。

 

押し寄せるSAPコンサルタント枯渇問題とグローバル化の波に向かって


 

SAPの2025年問題を契機として考えなければならないことは、従来型のERPからの脱却や、DXによる価値創造だけではない。日本企業に必ず押し寄せてくる課題として、IT人材不足やグローバル化への対応も同時に進める必要がある。

SAPの活用には、システム導入時だけでなく運用保守フェーズに入っても専門知識を持ったコンサルタントが必要になる。一方で、SAPコンサルタントは慢性的に不足が続く。日本TCSは、前述のようにインドを含めたグローバルのリソースを大いに活用することで、SAPコンサルタントの不足に対する一つの解を提供できる。そして、日本とグローバルの知見、技術、体制を融合した「ハイブリッドモデル」により、日本企業のグローバル化を後押しする最適なソリューションも提案する。

ガラパゴス化したERPからの脱却、DXの推進、IT人材不足、グローバル化といった日本企業が抱える課題に、日本TCSは3つのポイント(グローバル展開、リアルタイム&モバイル、将来の予測)、S/4HANA活用を実現する3つのソリューション、グローバルリソースを活用した「ファクトリー」、そして、日本とグローバルの力を融合した「ハイブリッドモデル」という具体的な解決策を明確に示している。一刻も早くビジネスメリットを享受するためにこれらを活用して、いますぐ2025年問題への着手を始めたい。

 

2018年10月掲載


 

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