Innovation Insights

常に進化し続けるIoT

IoTはどの段階にあり、どこへ向かうのか?

 

IoTの現状と産業界への導入

IoTは、現代において最も影響力があり、大きな可能性を秘めた技術領域の一つです。消費者向け、産業向けなど、さまざまな形で社会に浸透しており、あらゆる業界で急速に導入が進むなど、関連技術開発の勢いには目を見張るものがあります。IoTバリューチェーン全体の盛り上がりを受けて投資も拡大し、新たな商品やサービスが開発されています。例えば、半導体業界はIoT向け新型チップの開発に注力し、また、センサー業界は微小電気機械システム(MEMS)の開発を進め、業界全体で2桁成長を続けています。

通信サービス企業は狭帯域IoT(NB-IoT)や省電力広域ネットワーク(LPWAN)など、IoT向けネットワークの提供に乗り出しています。さらにAWS(Amazon WebServices)を提供するアマゾンやAzureを提供するマイクロソフトといったクラウドサービスプロバイダーは、IoTを念頭に置いた新たなPaaS(Platform-as-a-Service)型のサービス提供を開始しています。

企業では、より広い視野に立ったデジタル戦略やデジタルトランスフォーメーションの取り組みの一環としてIoTを認識する傾向が強まっています。IoT活用の主な目的はオペレーションの効率化ですが、それ以外にも予知保全やアセットライフサイクルの最適化、設計の最適化などに利用するケースが顕著です。また、新たなサービスラインや収益源の創出を目指す取り組みの一環としてIoTを導入する企業も現れています。工業分野ではデジタルツイン※1への関心が高まっており、デジタルツイン・モデルの開発にIoTで取得したデータが利用されています。しかしながら、IoTで収集したデータそのものに魔法のような力があるわけではありません。多くの場合、こうしたデータはIoT以外のさまざまソースから集められたデータと統合して初めて、何らかの役に立つのです。効果的なデータエンジニアリングには相当の時間と労力、経営資源を要します。実際にアナリティクスに適したデータセットにつくり上げるためには、強力なデータエンジニアリングチームとツール、さらにはビッグデータのプラットフォームを利用したデータ統合とETL(Extract-Transform-Load)※2のプロセスが不可欠なのです。

※1 現実世界で起きている事象をあたかも「双子(Twin)」のようにデジタル環境で忠実・精緻に再現し、従来培ってきたものづくりや、社会インフラなどの知見を最大限に活用し、高度なシミュレーションを行うことで、過去の事象の再現や将来予測に活用する技術。

▶(ご参考)Digital Twinについて(英語コンテンツ)

※2 企業内に存在する複数のシステムからデータを抽出後、抽出データを変換・加工し、データウエアハウス等へ引き渡す処理、およびそれを支援するソフトウエア。

 

デジタル技術の二重奏:AIとIoT

職場でのAI活用をめぐる話題は毎日のようにニュースの見出しを飾っていますが、「デジタル社員(人間に代わって業務を行うチャットボット・バーチャル社員)」を採用するといった発想は、AI活用における氷山の一角にすぎません。産業界はAIとIoT活用に強い関心を持っています。従来の機械学習のほかにも、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)などの深層学習の手法が、予知や分類、異常の検知などを目的としたセンサーデータの処理に利用されています。

NVIDIA社などのベンダーは、組み込みシステム機器でAIのワークロードを実行する際に使用するGPUを開発しました。ARM社やインテルといったIoTチップベンダーもまた、AIのアルゴリズムを実行するための特別なハードウエアサポートを導入し始めており、さらにTensorFlow ※3のような軽量タイプのAIツールもIoT機器向けに開発されています。こうした一つ一つの進歩が積み重なり、AI × IoTという強力なデュオ(二重奏)の推進力になっているのです。

注目を集めるもう一つの分野に、「エッジ処理」、あるいは「エッジ・アナリティクス」と呼ばれるものがあります。「エッジ」とは、IoT機器やアセットと物理的に近接した位置にある、ネットワーク上の「端(はし)」を意味します。クラウド上やデータセンターにデータを集約して処理するのとは対照的に、エッジ処理はユーザーの現場で行われます。データの前処理やフィルタリング、特徴抽出といった処理を、データソースに極力近い場所で実行するのです。エッジ処理の利点には、遅延の短縮、制御システムのレスポンスタイムの向上、クラウド接続への依存低減(および、これによる信頼性向上)、ネットワークのトラフィック軽減、コスト削減などが挙げられます。そのため、多くのIoTプラットフォームプロバイダーが、エッジ処理に適したプラットフォーム製品を投入しており、この市場は今後大きく成長すると予想されます。

※3 グーグルが開発し、オープンソースで公開している、機械学習に用いるためのソフトウエアライブラリ。顔認識、音声認識、被写体認識(コンピュータービジョン)、画像検索、リアルタイム翻訳、ウェブ検索最適化、メール分別、メール自動返信文作成、車の自動運転などの用途に利用できる。

▶(ご参考)TensorFlowの概要

 

IoTをInternet of Troubles(トラブルの種)にしないために

セキュリティーの確保は依然としてIoTにおける最大の懸念事項であり障壁です。セキュリティー面に関しては、産業界全体の危機意識とケイパビリティーを現在よりも数段高いレベルに向上させる必要があります。また、EU一般データ保護規則(GDPR)などの法規制は、IoTの技術・サービスプロバイダーに大きな責任を課しており、AIおよびIoTプラットフォームや製品・サービスには、プライバシー保護要件を満たすことが求められます。輸出管理規制への対応も、IoT導入に立ちはだかる課題です。IoTデータをサプライチェーン上の、またはエコシステム内の他組織と共有する場合、法規制上の要件を満たす必要があることに留意しなければなりません。

IoTは産業界と学術界に興味深い研究課題も提起しています。サイバーセキュリティーの関係者にとって、IoT向けの軽量暗号や信頼性の高いコンピューティング環境の整備、形式手法、正式なセキュリティー証明書などは注目すべき研究分野であるといえるでしょう。ブロックチェーンの世界では、分散台帳とIoTを組み合わせることで興味深い解決策を見いだせるかもしれません。特に、相互の信頼関係が存在しない複数のステークホルダーが関与するような場面への応用が考えられるかもしれません。またブロックチェーンは、輸出管理規制やプライバシー規制を順守したデータハブの創出にも効果的に利用できるかもしれません。AIや機械学習の領域では、軽量かつ効率的なモデルの開発、新たな深層学習ネットワーク、軽量IoT機器に適した推論エンジンなどが重要なテーマになるでしょう。

冒頭で述べたように、IoTは現代における最も刺激的な技術領域の一つです。IoTの周辺では活発な投資が行われ、数多くのビジネスチャンスが存在しています。学生や若い世代にとっては、この分野でキャリアを築くこともできる画期的な時代といえるでしょう。タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)はシステムインテグレーターとして、またソリューションプロバイダーとして、IoTに秘められた可能性の実現に向けてお客様を支援するとともに、IoTをTCSが提唱する「Business 4.0™ 」の重要なイネーブラーの一つに位置付け、デジタル技術を活用したビジネストランスフォーメーションの実現に貢献していきます。

 

アナンス クリシュナン

タタコンサルタンシーサービシズ
EVP 兼 CTO

1988年、タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)入社。1999年から経営陣に加わる。国内・国際会議の組織委員会、大手ソフトウエア企業、業界団体・行政機関のアドバイザリーボードのメンバーも務め、IEEEのシニアメンバーでもある。アーキテクチャと技術コンサルティングの領域で主席担当を務めた後、システムマネジメントとシステムソフトウエアグループのヘッドを歴任。現在は、R&Dとイノベーションを統括し、「4E イノベーション統合モデル」や企業・大学などとの協働ネットワークである「TCSコイノベーションネットワーク(TCS COIN™)」といったコンセプトの開発・導入を手掛ける。
 

プラティープ ミスラ

タタコンサルタンシーサービシズ
TCSコネクテッド・ユニバース・プラットフォームヘッド

TCSテクノロジー&エンジニアリングサービスの部門長として、TCS独自のIoTプラットフォーム「TCSコネクテッド・ユニバース・プラットフォーム(TCUP)」のチーフ・アーキテクトを務め、ソフトウエア・エンジニアリング、研究開発、コンサルティングの領域で25年の経験を持つ。専門領域は、組み込みシステム、RFID(Radio Frequency Identifier:近距離無線通信を用いた自動認識技術)、ITインフラ、リアルタイム・アナリティクス、クラウド・コンピューティングなど多岐にわたる。

 

※掲載内容は2018年12月時点のものです。

▶ 当社 季刊広報誌「CATALYST」Vol.17 より転載。PDFはこちら

 

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