Focal Point

「マシンファースト」なデジタル化が日本の金融機関に変革をもたらす

 

日本TCS 金融グループ ソリューションエグゼクティブ マネージャー 白崎典正

 

日本の金融機関を取り巻く環境が激変していることは周知の通りだ。政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字を取ったマクロ環境分析のフレームワークである「PEST分析」の手法を借りるとわかりやすい。

Pの政治では、マイナス金利政策で金融機関の収益は圧迫され、FinTech(フィンテック)促進の旗印の下に外部連携を容易にするAPI対応を迫られている。Eの経済では、新興のFintech企業や他業種からの金融事業参入がある。他業種では幅広いサービスの提供が可能なこともあり、既存の銀行などにとって脅威が広がっている。Sの社会では、労働人口の減少や少子高齢化が課題となる。Tの技術は、ネットやモバイルの普及がさまざまなサービスで利用者の利便性を高めたが、金融機関内の受付や審査などのバックヤードのプロセスが人的作業による旧態依然な作業でスピード感がなく、デジタル化による業務改善はこれからという状態だ。

 

生き残りをかけた「人」と「マシン」の融合


PEST分析で見えてくる課題の中には、最後のTに示す「技術」をうまく活用することで解決できる部分が多い。例えばAI(人工知能)やロボティクスによって、オートメーション化を進めることで、人的作業の限界を超えるスピードを実現したり、コストメリットを得たりすることができる。顧客のメリットを考えたシステムを構築することで、他業種からの進出に対抗することも可能だ。しかし、気をつけなくてはならないことがある。それは、顧客による申し込みから金融機関での業務に至るまで、全体を俯瞰したデジタル化が必要だということ。口座開設やローンの申し込みはスマホ経由で簡単になっても、バックヤードの受付や審査が人的作業では、真の価値を提供することはできない。人間がデジタル化のボトルネックになってしまうのだ。

これからの金融機関には人とマシン/デジタルの融合が必要

日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)で金融グループ ソリューションエグゼクティブ マネージャーを務める白崎典正は、「人間ができることには限界があります。人材不足も深刻です。これからは、いかにテクノロジーでオートメーション化を推進するかが1つのカギとなります。その時には、人と機械が対立する“Human vs. Machine”ではなく、人と機械が共存して働く“Human with Machine”の考え方を持つことが必要でしょう」と語る。金融機関の競争相手には、既存の同業他社はもちろん、流通業など他業種から参入する金融機関やFinTech企業、さらにGoogleやAmazon、Facebook、Apple(GAFA)、日本ではLINEなどのITプラットフォーマーが名乗りを挙げてくる。「LINEを見ても、何億人という顧客基盤があり日常生活における活用率も高く、幅広く普及したスマートフォンをフロントエンドに使うことができます。日本だけでなく、こうしたGAFAなどのプラットフォーマーは金融機関の脅威になって、金融機関も大胆な変革を求められています」(白崎)

 

「Business 4.0™」で金融機関が生まれ変わる


日本TCSはグローバルで事業を展開するITサービス企業であるタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)と三菱商事の合弁会社である。TCSは、世界中のお客さまやパートナーと培った知見をもとに「Business 4.0™」を提唱し、新しいビジネスの形へと変革を促している。

Business 4.0™とは、どのようなものか。産業(インダストリー)は、蒸気機関(1.0)、電気と航空(2.0)、コンピューター(3.0)という時代を経て、デジタル時代のインダストリー4.0へと変化を遂げた。これに対しビジネスは、大量生産(1.0)、分散化とサプライチェーン(2.0)、生産性向上(3.0)という流れから、デジタルによるスマートエンタープライズへの変革を求められるBusiness 4.0™というステージにある。Business 3.0の時代には、パソコンやシステムを使った業務の効率化を実践してきた。Business 4.0™の現在、さまざまな情報を自ら得てより賢くなった消費者を対象にサービスや商品を生み出し、提供することが求められている。

Business 4.0™時代で重要な4つの視点

Business 4.0™を具現化している企業が身につけているものを整理すると、次の4つの姿勢と言える。

1つ目は「徹底的なパーソナライゼーション」。テクノロジーにより自身で情報収集できるようになった消費者は、マスに向けた情報やサービスではなく、自分にとってメリットのあるカスタマイズされたものを求めている。年齢や性別などの従来型の属性だけでなく、例えばオンライン店舗でどの商品を閲覧したかといった個人の行動やSNS上での言動などをもとにして究極の個別化・パーソナライズする仕組みが必要になるのだ。

2つ目は「エコシステムの活用」である。顧客に選ばれる価値を提供していくためには、横一線ではない創意工夫が必要であり、ここが企業の主戦場となっていく。しかし、異業種参入など新たなプレーヤーの登場や、新しい技術が次から次へと生まれるなか、自社だけで対応するには限界がある。一方で、金融機関のシステム基盤の優劣は、顧客にとっては差別化の大きな要因にならない。よって、企業の垣根を越えてエコシステムを構築し、プラットフォームを共有することで、スピードとサービス基盤を手に入れ、本丸である創意工夫に注力できる。

3つ目は「エクスポネンシャルな価値の創造」だ。俯瞰的にビジネスをとらえ、さまざまなデジタルテクノロジーを組み合わせることで相乗効果が生まれ、これまで以上に顧客の期待を超える高い価値を提供することを狙う。

4つ目は「リスクへの挑戦」。特にインターネットやモバイルを活用したサービスを提供するには、サイバー攻撃などのリスクを受け入れ、対策を施しながら新分野に打って出る必要がある。

白崎は「この4つの姿勢を身につけ、Business 4.0™の時代の新しい金融ビジネスを実現していくことが重要だ」と強調する。

 

マシンファーストのフレームワークを活用し、決断に必要な情報を見える化


TCSは、Business 4.0™を実現する手法についても新しい提案を行っている。それが「マシンファースト」である。ここでいう「マシン」とは、AI、オートメーション、アナリティクスなどのコンピュータによるインテリジェンスな仕組みを指す。マシンファーストとは、これまでのように「人間に何ができるか」をまず考えるのではなく、「マシンに何ができるか」を検証した上で、マシンにできないことをどのように人間が補佐するかを考える方法論だ。

「マシンファーストを実現するためには、AIやIoT、オートメーションなど複数の技術を組み合わせ、統合して使う前提で考えます。その上で、全社をあげて横断的にビジネスプロセスのオートメーション化を図ること、IT部門だけでなくCOOやCFOなどのいわゆる“CxO”に代表されるステークホルダーの視点をカバーすること、そして人間が『作業する』ことから解放されて『マシンを操作する』役割へと変化すること――を考えなければなりません。つまり、マシンファーストとは、ビジネス、技術、ステークホルダーを俯瞰的にとらえながら、人とマシンの役割分担に対するマインドを転換する、ということです」(白崎)

このマシンファーストの考え方を、TCSは「MFDM™(マシンファーストデリバリーモデル)」というフレームワークとして整備し、提唱する。MFDM™には、顧客やパートナー企業、従業員、マシン、ステークホルダーなど多様な情報源から得たデータを入力。これらのデータは、デジタルデータもあればアナログデータもあるし、構造化されたデータも、音声や画像のような非構造データもある。MFDM™は、こうした多様なデータを元に、最終的にはステークホルダーがそれぞれのビジネスや役割を遂行する上で必要な情報をダッシュボードにスクリーニングして提示する。ステークホルダーが俯瞰的で的確な意思決定をスピーディーに下せるようになり、前述した4つの姿勢をはじめとした競争力の獲得につながる。

MFDM™のフレームワーク


ユーザーに選ばれる「マシンと会話する金融サービス」


 

金融機関にマシンファーストの考え方を適用して新しいサービスを実現した事例は、すでにグローバルマーケットで登場している。その事例のひとつが、米国にある大手金融機関が提供している「Conversational Banking」である。

「残高確認をしたい」「振込をしたい」といった要望に対して、従来のネットバンキングでは、パソコンやスマートフォンの煩雑な操作を行わなければならなかった。Conversational Bankingでは、電話やスマートスピーカーなどに「話しかける」だけで銀行のサービスを受けられる。また、質問や相談など従来コールセンターに電話をし、相応の時間を要してオペレーターと会話していた内容も、このConversational Bankingが“あなたのコンシェルジュ”として対応してくれる。

MFDM™のフレームワークを活用したこのサービスは、顧客のデータなど多くの情報をAIで分析して、話しかけてきた顧客が何を求めているかを理解する。次に要望に合致した回答を見つけて返事をし、会話の中で顧客が求めるサービスを完遂させる。こうした取り組みは、利便性の更なる向上、ユーザー層の拡大や業務効率化という効果をもたらした。具体的には、サービス開始から3カ月以内に200万人以上の顧客がConversational Bankingに登録し、従来のチャネルに比べてサービス提供にかかる時間を30~50%低減できたのだ。顧客自身が便利になるようなデジタル化を進めることで、収益向上といったビジネスメリットだけでなく、デジタル化企業としての先進性を示すことにもつながった好例である。

 

3つのマシンファーストなソリューションで日本の金融を変える


日本でも、Business 4.0™を加速するマシンファーストの考え方に基づくソリューションを提供している。日本の金融機関として環境の変化にどう対応していくか。白崎は「ITシステムを3つの領域に整理して考える必要がある」と語る。

「1つが金融機関の内部や対外的に接続する企業・機関などに対する業務のコスト効率化を図る『SoR』(システムオブレコード)、2つ目が顧客に対面して新サービスの提供やロイヤリティ向上を目指す『SoE』(システムオブエンゲージメント)です。ここまでは一般的な用語ですが、3つ目として日本TCSでは『SoO』を提唱しています。これは“システムオブオペレーション”を略した用語であり、SoE やSoRのシステムを効率的に運用する仕掛けを指すものです。ビジネスとITを分けて考えてしまうことが多い中、私たちはこれらを分断せず俯瞰して考えていただけるようSoOとして示しています」(白崎)

日本TCSには、SoR、SoE、SoOの3つに整理したそれぞれの領域で、注力しているソリューションがある。コスト削減を目指すSoRに対応した「TCS BaNCS」、顧客とのエンゲージメントを高めるSoE用途の「TCS ConversA」、SoOの分野で複雑なシステム運用の自動化を実現する「ignio™」である。

日本TCSの金融向けソリューション

TCS BaNCSは、金融機関のITコストの大半を占めている勘定系などのバックエンドシステムをクラウド上で稼働させる。また、Fintechなど外部サービスとダイレクトにAPI連携することも可能。TCSはオンサイトとインドオフショアのハイブリッド体制で、システムの構築、保守、運用を支援する。これらの仕組みと体制で長期的なコスト構造を大幅に変革するソリューションだ。TCS BaNCSはすでに世界の400を超える金融機関で採用されており、世界中の先進金融機関から得た知見を日本市場でも提供していけるという。

TCS ConversAは、Conversational Bankingを実現したソリューションで、日本でも同様の新しい金融サービスの実現を支援する。MFDM™のフレームワークを用い、AIやオートメーションの技術を活用して、多様なフロントデバイスやアプリとのインタフェースを備えるスマートバンキングを実現。Webサイトからの利用だけでなく、メッセージアプリによるチャット、スマートスピーカーを使った会話といったチャネルやデバイスをまたいだ利用など、顧客体験を向上させて新しいビジネスを拡大していくことに貢献する。

ignio™は、システム運用の仕組みを大きく変えるコグニティブソリューションだ。サーバーやネットワークからなるシステム情報の自動収集と可視化や、メンテナンスの自動化、故障リスクのオペレーターへの通知のほか、トラブル発生時には障害の切り分けや対応案の作成までも行う。

「トラブル発生時、従来ならばSEを集めて障害の切り分けを行って数日後にようやく原因が判明することが多くありました。しかしignio™ならば、障害が起きた可能性が高い部分を指摘し、対応策を示してくれるため、人間はすぐに対策を施せます。また、ignio™は通常稼働時のデータを蓄積し、平常時と異常時をコグニティブ(認知的)に判別できます。高度な使い方をすれば、サーバーの障害時の自動復旧も可能です」(白崎)

激変する日本の金融業界。すでに多くの企業でデジタル化への取り組みが始まっているが、部分的で十分な効果を得られていない場合もある。日本TCSは、新たなビジネスの形「Business 4.0™」、そして、マシンと人の役割を見直した「マシンファースト」を掲げ、改めて日本の金融機関の真のデジタル化と変革を支援していく。

 

2018年10月掲載

 


 

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