グローバル・パースペクティブ

「ビジネス4.0」〜産業とビジネスの新たな時代

 

第4次産業革命の到来

ビジネス4.0とは何か。産業界の歴史を振り返るとその答えが見えてくるでしょう(図1参照)。まず18世紀に蒸気機関が誕生しました。これは結果的に第1次産業革命の端緒となり、製品の大量生産が可能になりました。次に大きな変化をもたらしたのは電気と航空機の発明でした。第2次産業革命です。電気というクリーンなエネルギーを手にし、航空機による製品の大量輸送が容易になりました。サプライチェーンが拡大し、また製造拠点が世界各地に分散し、企業はその提供価値を世界中に広げることが可能になったのです。

続いて起きたのは第3次産業革命でした。コンピューター時代の到来です。コンピューターの民主化、つまりあらゆる人がコンピューターを使える時代を迎えました。世界中の企業がコンピューターを使えるようになり、中小企業でも大企業と同じように生産性の向上を実現したのです。

そして21世紀の始まりとともに、私たちは第4次産業革命に突入しました。ソーシャルメディアが台頭し、人と人とのつながりがデジタル化しました。また、コンピューターを活用した分析技術などが飛躍的に向上し、スマートエンタープライズといわれるような新しい企業が生まれました。つまりデジタルの時代。これがビジネス4.0です。

図1:ビジネス4.0へ至る産業界の歴史

 

「ビジネス4.0」がもたらす変革

ビジネス4.0について具体的に考えてみたいと思います。ただし、その前に認識しておかなければならないことがあります。それは、どんな時代であろうと、ビジネスの根幹となるのは顧客だということです。顧客に対して、どのような価値を創造し提供できるかを考える。それが企業のあるべき姿です。これは昔も今も全く変わりません。しかし一方で、変わっていかなければならないものもあります。ビジネス4.0で何が変わり、どのようなパラダイムシフトが起きているか。その四つの特徴を見てみましょう。

第一が、“マス・カスタマイゼーション(Mass Customization)”あるいは“究極の個別化(Extreme Personalization)”です。私たちは、昔から顧客のセグメント化を行ってきました。顧客を小さなグループに分け、ターゲットに絞った製品、あるいはサービスの特徴をつくってきたのです。それがますます精緻化されたのが今日の状況です。製品あるいはサービスが、一人一人の消費者のためにつくられる「個のセグメント化」の時代です。

そして今、セグメント化は全く新たな次元へと入りました。全ての市場のあらゆるカスタマーの潜在性を模索し、特定の個人やグループではなく、全ての市場を取引可能な市場として捉え直すということです。

これを踏まえ、第二に、“指数関数的に拡大する「価値」”が挙げられます。

こうした時代には、顧客は企業から提供される製品やサービスに対してますます大きな期待を抱き、より大きな価値の提供を求めます。最も良い製品、最も良いサービスを、最も安い価格で、しかも今すぐに欲しいという要求です。しかし、企業は、とどまるところを知らない顧客の期待に応えていかなければならないのです。なぜなら、それが自社のそのほかのステークホルダーにとっても、よりいっそう大きな価値を生み出すからです。

第三が、“エコシステムの活用”です。

現代のビジネスは、スピード感を求められる一方で、複雑性も飛躍的に高まっています。こうした状況に対応するためには広範なエコシステムの活用が必要です。企業同士が競うのではなく、広範なエコシステムの中でノウハウや知見を持ち寄って新たなものをつくり出さなければ、顧客の要求に応えることは困難です。エコシステムをつくり、育て、そしてその上で何を生み出していくか。その力量と意志が勝敗を左右します。

ビジネス4.0の最後の特徴は“リスクに対する考え方”です。

これまで企業は、リスクをいかに小さくするかに注力してきました。しかし、ビジネス4.0ではリスクをあえて受容することでほかにはない競争優位性を獲得し、利益を手にするという新たな発想が必要です。これまでのようにリスクを回避することばかりにとらわれず、リスクを把握し管理していくことが重要になります。

図2:グローバル企業におけるビジネス4.0の経営変革事例

 

ビジネス4.0が企業経営を180°転換する

ビジネス4.0の世界では、経営者の考え方も変わりつつあり、また変わるべきであるといえるでしょう。それは、経営資源に制限や制約は存在しない、資金や人材、あるいはケイパビリティはふんだんに存在するのだと認識することです。例えば、それらが地球の裏側のはるか遠い場所に存在しているとしても、現代のテクノロジーをもってすれば、そのようなリソースとつながり、自社の経営資源として活用することは可能なのです。

そして、それを支えるテクノロジーは急速に進化し、こうしたビジネス4.0の考え方を具現化する推進力になっています。自動化、アナリティクスを支柱としたAI、クラウドといったテクノロジーは、企業がふんだんに存在するリソースを効果的に活用し、ビジネス4.0 のけん引力である「マス・カスタマイゼーション」「リスクの受容」「エコシステムの活用」「指数関数的に拡大する価値」の実現を可能にしています。

図3:TCSが展開するアジャイル案件

 

TCSのビジネス4.0への取り組み

ビジネス4.0時代に対応するタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)の取り組みについてお話ししたいと思います。

まず、テクノロジー開発に対するアプローチについて。TCSでは地理的な条件に制約されないアジャイル開発を積極的に導入しており、お客様からも高い評価をいただいています。現在1,500以上のアジャイル案件があり、そのうち100以上が大型案件です。さらに80以上の案件では、アジャイルがテクノロジーを超えて変革プログラムに成長しています。つまり、IT、ファイナンス、法務、そしてHRを含む企業の組織全体に及ぶ変革であり、企業がITをどのように使うか、その考えを根本的に変えるものです。私たちが取り組んでいるアジャイル案件の実に80%以上でお客様の生産性が改善されており、例えば、不良品の早期検知やリードタイムの削減など、さまざまな場面で効果を挙げています。この数字一つを取ってみても、アジャイルが単なる開発手法を超えた、組織の変革であることを物語っています。TCSでは、2020年までに全ての案件をアジャイルにすることを目指しています。

人材開発にも注力しています。6万人以上の技術者が、アジャイルのノウハウを持ったスペシャリストとして訓練を受けており、すでに2,000人以上がアジャイル開発者の認定を取得しています。

TCSは研究とイノベーションにも積極的に取り組んでいます。大学機関との協働で10年、20年という時間軸で取り組む基礎研究に加え、インダストリー4.0(Industry 4.0)、ガバナンス、サステナビリティといった、企業が取り組まなければならない課題にも注力しています。また、金融、小売など、個別の業界が抱える課題解決を図る研究にも取り組んでいます。例えば、ブロックチェーンやデジタルストア、コネクテッドカー(つながる車)、医療機器などの分野です。TCSは、研究とイノベーションの分野において常にトップを走り続けてきました。それが世界中のさまざまな地域や業界で私たちがお客様のパートナーに選ばれる大きな理由の一つとなっています。

さらにTCSでは、さまざまな研究やイノベーションへの取り組みを論文として広く発表しており、その数は年間4,000件以上にも上ります。一昨年はIoTに関する論文を出稿し、昨年は欧州におけるAIの活用事例を報告しました。もちろんクラウドについての論文も数多くあります。これらはTCSのWebサイト、もしくは各拠点を通じて入手できますので、ぜひご覧ください。

ビジネス4.0。この新しいステージでは、テクノロジーとビジネスの融合がよりいっそう加速するでしょう。そして、この競争を勝ち抜くために求められるのは、スピーディな経営とテクノロジーを柔軟に取り入れる受容性です。それこそが企業の将来を大きく左右する、まさに産業とビジネスの新たな時代の到来です。

 

タタコンサルタンシーサービシズ 代表取締役社長 兼 CEO
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ 取締役会議長
Rajesh Gopinathan
ラジェシュ ゴピナタン

 

2013年よりTCSのCFO(最高財務責任者)を務めたのち、2017年2月にCEO就任。CFO就任以前は、Business Financeのバイスプレジデントとして、TCSの各業務ユニットの財務管理を担当。財務計画の策定・管理に加え、レベニューアシュアランス(収益機会最適化)や利益管理も担ってきた。CFO在任中の2015~2016年にはTCSの時価総額が700億ドルを超え、インドで最も企業価値のある一社と認められた。

2001年にタタ・グループのハイテクおよび新規事業を推進するタタ・インダストリーズ社からTCSに入社。TCSにおいて、米国で新規eビジネスを立ち上げ、また、新たな組織体制や経営モデルの設計・構築・実行に取り組んだ。2014年、インド経営大学院(IIM)アーメダバード校から「CorporateLeader」分野の「Young Alumni Achiever’s Award」を授与された。リージョナル・エンジニアリング・カレッジ(REC)ティルチラパリ(現ナショナル・インスティテュート・オブ・テクノロジー(NIT)ティルチラパリ)で電気・電子工学を学び、1994年に卒業後、IIMアーメダバード校で経営学を修了。

 

※掲載内容は2018年2月時点のものです。