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真のカスタマーエクスペリエンスの実現

 

真のカスタマーエクスペリエンスの実現
 

ヨーロッパで初めてボーイング787(B787) を運航開始したLOTポーランド航空では、先日、B787の乗客数が50万人を突破しました。これを記念して、同航空会社はワルシャワ・ショパン空港の出発ターミナルでフラッシュモブを計画しました。ミュージカル劇団の歌手やダンサーが、突然ABBAの「マンマ・ミーア」に乗せてパフォーマンスを行ったのです。言うまでもなく乗客は驚き、人生で最も心に残るような体験をしました。

こんな話もあります。ある米国系の航空会社は、有料で機内Wi-Fiサービスを提供しています。ある乗客がこのサービスを利用しようと料金を払いましたが、技術的なトラブルで利用することができませんでした。そのおわびに、航空会社はWi-Fiサービス料金を払い戻し、客室乗務員は本来ならば有料の飲み物をサービスしました。取るに足らないことではありますが、問題が起こった後にいかに顧客の立場に立った対応が取れるかがカスタマーエクスペリエンスを大きく左右するということを、覚えておくべきでしょう。

ある商品やサービスを購入した人は「良い」「悪い」といった印象を抱き、支持者にも批判者にもなり得ます。またその結果、直接的または間接的にその商品やサービスの売り上げに影響を与えることもあるでしょう。小売店、航空会社、銀行、保険会社といったB2C企業は、近年「カスタマーエクスペリエンス管理(CEM)の向上」を重要な目標としています。これらの企業にとってCEMは売り上げ増大の手段であり、それを軸にさまざまな方策を編み出そうとします。前述の航空会社の例では、「嬉しいサプライズ」という要素が好ましい体験の記憶につながっています。CEMの成功例といえるでしょう。調査によれば、顧客は企業から親身で気配りの利いた扱いを受け、そこに「サプライズ」の要素が備わっていることを望んでいるようです。企業は、こうした顧客の願望に応えることをカスタマーエクスペリエンス向上のための戦略的な柱とするべきです。そして、パーソナライゼーションやサプライズといった顧客の期待に応えるサービスを演出するには、企業は組織内でだけでなく、外部パートナーとも協調することが必要です。

CEMについて、航空業界を例に取ってより詳しくご説明しましょう。航空業界は最も競争が激しく、最も複雑な業界の一つです。空の旅のコモディティー化が進み、大半の利用者が気にするのはもはやチケットの価格だけですが、飛行機を利用するという体験自体は楽しい思い出にも不快な思い出にもなり得ます。しかしながら、その体験を左右する完全な顧客情報を持っている人は、航空会社の社員や空港のスタッフにほとんどいません。足元の広い座席が、乳児用ベッドを必要としない乗客に割増料金で売られ、乳児を連れた家族が使えないというのは残念な話です。機内で病人が発生し、乗客の中に医師がいないかを尋ねる機内アナウンスが流れるという状況もよく耳にしますが、まさに後手に回った対応といえます。このような事態が起こるのは、客室乗務員が乗客に関する十分な情報を与えられていないからです。

それでは、航空会社はどのようなシーンにおいて、より良いカスタマーエクスペリエンスを実現し得るのか、考察してみましょう。

チケット購入

航空会社の商品・サービス部門は多様な客層を視野に商品を企画します。販売・マーケティング部門はそれをさまざまなチャネルを通じて顧客に提示します。しかし顧客にとっては、チャネルごとに提示されるものが異なるために、チャネルをまたいだシームレスなサービスを受けることができず、不便を感じるケースが多くあります。

出発前

フライトの遅延や短い乗り継ぎ時間は、カスタマーエクスペリエンスを大きく左右します。乗り遅れによって乗客が受けるストレスや不安は、航空会社が考えているよりはるかに大きいのです。実のところ、乗客が抱えるこうした不安は、基本的なITシステムを活用することで緩和できます。遅延のため乗り継ぎに間に合わなかった場合には、空きのある一番早い別の便を手配して荷物もその便に載せるようにすることで、不安を抱く乗客は安心してフライトを続けられます。

また、航空会社に預けた手荷物の積み残しや紛失は今も昔も乗客、航空会社双方を悩ませる問題です。さまざまな対策のかいなく解消されるには至らず、多くの乗客で混雑する繁忙期には一層深刻になります。乗客にとって手荷物の紛失は、100%航空会社に責任がある、最もいまいましい体験です。手荷物の事故は航空会社と空港の共同責任であり、システムの統合に向けた協力が鍵となるでしょう。

欠航

飛行機の欠航も最近ではよくあることです。テロ、サイバー攻撃、空港のシステムまたは航空会社のIT システムの障害、悪天候、あるいは機械の故障によっても起こり、その影響は広範に及びます。欠航が発生するとターミナルに乗客が殺到し、空港で過ごさねばならない人が疲労と不満を募らせます。こうした状況では、途方に暮れた人たちに正しい情報を提供する必要があります。悪夢のような事態ですが、手に入る限りの正しい情報や有用な最新情報を定期的に乗客に提供することにより、彼らの苦痛を最小限に抑え、納得してもらうことは不可能ではありません。

機内

機内で過ごす時間の良し悪しは、その旅の印象を大きく左右する要素の一つです。機内食の選択肢、映画の選択肢、あるいは好みの読み物を取りそろえるといった単純な喜びでさえ、顧客満足の創出に大いに役立ちます。また若い世代の乗客にとっては、座席の端末でボードゲームや対戦ゲームを他の乗客とすることができれば、これ以上に楽しい過ごし方はないかもしれません。

到着

乗客への最後のタッチポイントは、目的地の空港に到着した時です。空港側との連携により、初めて訪れた空港や都市でも乗客がスムーズに行動しやすくすることができます。例えば、どこで両替するのが一番いいのか、目的地に行くにはバスに乗るべきか、それとも列車またはタクシーに乗るのがいいのか、タクシーはカード払いもできるのかそれとも現金のみなのか、目的地まで少なくとも2時間はかかるから乗車前にコーヒーの一杯でも飲んでおくべきか、などわからないことがたくさんあります。

 

CEMとは、顧客の体験の端から端までの各段階で、着実に付加価値を積み上げていくことにほかなりません。現在の技術をもってすれば、航空会社が完全にホリスティックな体験を顧客に提供することは可能です。タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)は航空業界に豊富な経験を持ち、航空会社のCEM戦略実現を支える「顧客のシングルビュー」「航空会社向けカスタマーデータモデル」「オペレーションのシングルビュー」などのソリューションを取りそろえています。航空会社のエコシステム全体から顧客の全体像を捉える「顧客のシングルビュー」は、オペレーションシステムと連携させることにより、欠航の際にもスタッフが状況に応じた対応をすることを可能にします。

今必要なのは、航空会社のシステムの中だけでなく、それを超えた範囲で顧客のB2C企業との関わり方―小売店での特別な買い物、新車や住宅用の保険への加入など―を把握し、それらの情報を統合することです。統合された顧客情報を手に入れ、オペレーションと連携を図ることは、真の付加価値を生み出すための第一歩です。そして、こうした考え方は、航空業界だけでなく他の業界にも当てはまります。明確に定義され、その分野に特化した顧客データモデルを中軸として、あらゆるタッチポイントにおける顧客との交流や会話をキャプチャーする能力が必要です。そのような能力を活用すれば、企業は一貫した顧客情報を入手しやすくなり、顧客により良いサービスを提供することが可能になります。こうした戦略は、真のカスタマーエクスペリエンスを実現する上でも非常に役立つでしょう。

掲載内容は2017年1月時点のものです

 

日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ
TTH(Travel, Transportation & Hospitality)統括本部長
Poonam Budhiraja
 

コンサルティング、ソフトウエアソリューションの設計・開発、システムインテグレーション、プロジェクトマネジメントなどのITサービスに約30年の経験を持つ。最新の技術や業界(とりわけ航空・空港、輸送・ロジスティクス)の動向に精通し、論文等も多数発表している。インドのデリー大学よりコンピュータサイエンスの修士号を取得。1987年よりタタグループ企業で勤務している。

現在は東京を拠点とし、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズにて旅客・運輸業界向けサービス部門のIndustry Leader兼Industry Solution Leaderを務めている。