JAL、イノベーションへの挑戦 多様性の中、プロジェクトを成功させるには

TCS Innovation Forum Japan 2021レポート

JAL、イノベーションへの挑戦
多様性の中、プロジェクトを成功させるには

 

日本航空(JAL)は長年、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み続けてきました。近年は社外も巻き込み、大規模なDXプロジェクトを推進。経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「DX銘柄2021」にも選ばれています。

20年にもおよぶイノベーションへの挑戦を経て見出したものは何か。JALの西畑智博常務執行役員デジタルイノベーション本部長が「DXへの挑戦 SAKURA and JAL Innovation Lab」と題して、当社のイベント「TCS Innovation Forum Japan 2021」で講演しました。

JALのDX、20年以上の歴史

JALにおけるDXの取り組みは、1995年のウェブサイト「jal.co.jp」の立ち上げから始まります。1996年には日本で初めて国内線のインターネット予約を開始。現在、国内線の航空券の8割程度がオンラインで購入されているなど、eコマースは伸び続けています。

2021年9月に発表したJAL統合報告書では、価値創造プロセスの中核としてデジタル・IT戦略を明確に位置付けています。この戦略について、中期経営計画では「人財とテクノロジーを融合してDXを推進し、あらゆる体験価値を最大化」することを目指し、(1)次世代IT基盤の構築、(2)ビジネスプロセスのデジタル化を通じた業務プロセス変革、(3)JAL Innovation Labの活用などのDX推進、という3層の取り組みを掲げています。(1)は「IT企画本部」が、(2)と(3)は西畑氏が率いる「デジタルイノベーション本部」が取り組んでいます。

デジタルイノベーション本部のミッションは2つ。まず、人財×テクノロジーで地に足のついたイノベーションを生み出す「DX」。もう1つは、豊かでサステナブルな社会を実現する「新たな事業創造」です。

「DXフォーメーションの進化」
(TCS Innovation Forum Japan 20221向け日本航空講演資料をもとに日本TCSが編集)

 

世界40社以上を「ワンボート」に SAKURAプロジェクト

JALのDXにおいて、2017年にサービスインを迎えた「SAKURAプロジェクト」の成功は大きなものでした。旅客基幹システム(PSS)を実に50年ぶりに刷新するプロジェクトです。

スペインのアマデウスが開発したAltea(アルテア)というシステムを使い、予約・発券・搭乗のシステムを含むPSSを、国内線、国際線とも同時に移行。

「ヨーロッパのアマデウス、インドのTCS、さらにはJALグループという日印欧の混合チームです。異文化を乗り越えることが、1つの大きなテーマでした」(西畑氏)

このときのポイントは「2つのPM」。それは「『プロジェクトマーケティング』と『プロアクティブマネジメント』です」

「プロジェクトマーケティング」とは、プロジェクトのメンバーや関係部門、経営層、現場、グループ会社、パートナーのさまざまな企業と一体になること。「世界中の現場の社員と直接コミュニケーションをとったり、40社を超える多国籍のパートナーの皆様とこのプロジェクトは進めました」

「Project Marketing」
(TCS Innovation Forum 2021向け日本航空講演資料より転載)

 

掲げたキーワードは「ワンボート」。「同じボートに乗っているんだから、ゴールまでみんなで走ろう」という意味です。多様なバックグランドを持つ参加者が一体感を持てるよう、地道な工夫もしたそうです。

「SAKURAプロジェクトのロゴやTシャツも作り、フラッグにみんなでメッセージを書き、手書きのサンクスカードを、カットオーバーまでに1662枚、手渡しで配ったりもしました。パーティーも開きました」

もう1つの「プロアクティブマネジメント」とは何でしょうか。「自分の領域だけをやっていては、取りこぼしてしまうことがあります。主体的に行動できるチームにしよう、ということで1つ上のポジションから俯瞰する訓練を皆さんに推奨しました。グループ長なら部長、部長なら経営層の目線で、全体をカバーするのです」

開発の進捗の見える化にも取り組みました。「170項目にのぼるクライテリアをベースに信号機のような3色で進捗状況を示しながら、役員会や取締役会に報告し、一体感を持ってプロジェクトを進めました」

「Pro-Avtive Marketing」
(TCS Innovation Forum 2021向け日本航空講演資料より転載)

 

こうした努力の結果、2017年の11月16日にサービスイン。関係者全員で、同じTシャツを着てサービスインをお祝いしました。プロジェクトの成功体験を得て「DXの基盤を1回手に入れることができた」と西畑氏。「挑戦のスタートラインに立った」と実感したそうです。

「2017年11月16日サービスインの様子」
(TCS Innovation Forum 2021向け日本航空講演資料をもとに日本TCSが編集)

 

「JAL Innovation Lab」……イノベーションの設備と風土

SAKURAプロジェクト成功後の2018年4月、JAL本社近くの天王洲アイルにオープンイノベーションの活動拠点として「JAL Innovation Lab」を設置しました。社内外の知見を活かして新しい付加価値やビジネスを創出することが目的です。

500平方メートルほどの広さに、チェックインカウンター、ラウンジ、機内食を作れるスペース、国際線の航空機のモックアップなどを配置。これらの設備を使い、ビジネスアイデアの立案から検証までが、ワンストップで可能です。

JALグループ社員は「ラボ会員」になることでラボを活用したアイデアソンや勉強会などに参加することができます。現在、170人以上の会員がいるそうです。

社外に向けては、ラボを持つ企業との「ラボ・アライアンス」を構築したり、シリコンバレーにオフィスを設けたり、「JAL Innovation Fund」というコーポレートVCも立ち上げたりしています。

こうして社内外の人財とテクノロジーを組み合わせ、3カ月を1タームとしてアイデアを出し、作って試す……といったことを繰り返し、新ビジネスを探っています。「会社の枠を超え、新たな事業やサービスを生み出す協創を目指していきたい。社外の皆さんともオープンイノベーションを進めています」

「『人財×テクノロジー』で地に足の着いたイノベーションを!」
(TCS Innovation Forum 2021向け日本航空講演資料をもとに日本TCSが編集)

 

ラボ発のサービスも生まれています。例えば、羽田空港に設置している遠隔操作アバターロボットの「JET」。ノウハウを持つ社員が遠隔でもサービスを行えるよう開発しました。もともとはスタッフの働き方改革から始まった開発でしたが、非接触非対面のサービスが求められる今、改めてその価値に注目しています。このほか非接触の自動チェックイン機、顔認証で買い物ができる店舗なども、ラボ発です。

 

「あの手この手作戦」

イノベーションを生み出すにあたり、「あの手この手作戦」を実行しています。「社内外の人を巻き込む」「同じベクトルに向かう」「失敗に学び実現にこだわる」「将来をイメージする」など、西畑氏はイノベーション実現に大切な10の要素をキーワードとして掲げ、メンバーと共有、一緒に試行錯誤を繰り返して、変革に挑んでいると言います。

「イノベーション・10のキーワード = あの手この手作戦」
(TCS Innovation Forum 2021向け日本航空講演資料を基に日本TCSで作成)

 

「心のエネルギー」はお金以上の資本

多様性の中で新たな取り組みを行うには、「信頼と感謝」がキーワードになると西畑氏は話します。「"I trust you, I appreciate you"は、いろんな場面で使っています」(西畑氏)

「新しいことを始めるには、心のエネルギーが重要」とも。「これからはお金以上の新たな資本として、心のエネルギーをどうやったら持ち続けられるか。そのためにはさまざまな人とオープンにパートナーシップを組むこと、そして、未来をイメージすること、興味を持つこと。これが一番大きな源泉なのではないかなと考えています」

※ 役職は2021年12月時点

 

 

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