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エコシステムの有効活用 目的志向型ビジネスへの革新

Business4.0の実態調査の意外な結果

 

タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)は、企業がデジタル技術を活用して、さらなる成長と変革への道を切り開くためのフレームワークとしてBusiness4.0を提唱しています。Business4.0は、今日のデジタル革命をけん引している主要なテクノロジーを含み、企業がデジタル時代で勝者になるために身に付けるべき四つの取り組み姿勢を示しています。第一に、製品やサービスを、個々の顧客ごとに、さらには個客との取引の一つ一つをセグメントとして捉え、全ての顧客に対して製品やサービスのパーソナライズを行う「マス・カスタマイゼーション」。第二に、多面的なアプローチから収益源を引き出し、新たな市場に適応するビジネスモデルを導入する「エクスポネンシャルな価値の創造」。第三に、サプライチェーン内外のパートナーと協業し、新たな製品やサービスを創造する「エコシステムの活用」。最後に、アジャイルの手法を戦略的に取り入れ、従来の柔軟性の低い計画体制から脱却するとともに、運用上の障壁を打破する「リスクへの挑戦」です。

TCSは2018年末、これらBusiness4.0の取り組み姿勢が、実際のビジネス現場でどのように実践されているかを客観的に把握するため、世界18カ国において、11の異なる業種の1,200以上の企業を対象とした調査を実施しました。その結果、幾つかの驚くべき点が明らかになりました。デジタル・トランスフォーメーションへの取り組みを推進しているリーダー(上記の四つの取り組み姿勢を実践している企業と定義)を見てみると、予想に反し、中小企業より大企業が多いことがわかりました。デジタル・トランスフォーメーションは中小企業でより活発で、広まっていると想定していましたが、調査結果は真逆だったということです。売上高50億ドル以上の企業のうち15%が、上記四つの取り組み姿勢で積極的に実践しているのに対し、売り上げ10億ドル以下の企業で全てに取り組んでいるのは5%未満にとどまりました。

また、四つそれぞれの実践状況では、ほぼ予想通りの結果が出ました。最も積極的に取り組まれていたのが一つ目のマス・カスタマイゼーションで、回答者の78%が自社の戦略に組み込んでいると答えました。興味深いのは、これに続くのがエコシステムで、54%がエコシステムの考え方を事業戦略に採用しようと前向きに取り組んでいると回答しています。

図1:企業が身に付けるべき四つの取り組み姿勢

 

エコシステムは一律ではない


まず、エコシステムはどのようなアプローチかを考えます。

従来の企業の考え方は、例えば銀行業、小売業、製造業など、業界別の縦割りで物事を考えるのが一般的でした。しかし、顧客視点で見ると、顧客の関心は、健康、ファッション、余暇などに向いていることがわかります。顧客中心の戦略を実現するためには、プロダクト志向から目的志向へと転換を図り、企業や産業中心の戦略思考から、価値中心の戦略思考へと変わらなければなりません。「どんな製品をつくるか」という問い掛けではなく、「顧客が何を求めているか、何を達成したいと思っているか」という目的中心型の問いへと、発想の転換が求められます。そして、顧客に価値創造と目的実現をもたらすことができるエコシステムの活用を考え始める必要があるのです。

一口にエコシステムと言っても、幾つかのレベルがあります。最もシンプルなものが「エンタープライズエコシステム」です。世界各国に拠点を持ち、独立した複数の事業体から構成されている大企業の場合は、企業そのものを一つのエコシステムと捉えることができます。次に、少し範囲を広げたものが「バリューチェーンエコシステム」。バリューチェーンもしくはサプライチェーンを構成する企業間の連携を、エコシステムとして捉えるものです。近年、協業の形は変わりつつあり、これまでに比べて流動的なコラボレーションの形を採用するエコシステムが一般的になっています。

最後に、最も複雑でパワフルなものが、異なる業界の企業同士による「業界横断エコシステム」です。

 

業界横断エコシステムがもたらすもの


業界横断エコシステムの実践例として、米国の医療保険大手企業の取り組みを紹介します。この企業では、2014年に総合的かつ価値中心型の健康関連のエコシステムを構築するという戦略の下、2020年までに被保険者の健康を20%改善するとの目標を掲げました。重視したのは保険やリスクではなく、健康に関する目的志向の戦略であり、同社は「健康増進」を中心として、その戦略を再構築することとなりました。

その一つとして、被保険者に健康増進専門のアプリケーションを提供しました。病院、健康サービス提供者、そのほかの医療関係者と連携し、個人向けに健康増進プログラムを提案するものです。次に、被保険者の健康づくりをより強力に支援するさまざまな企業をこのエコシステムに統合し、協働範囲を拡大しました。フィットネスジムから、マラソンやウオーキングなどのスポーツイベント主催者まで、さらには公園管理者と協働して随所に発信機を設置するなど、幅広いパートナーとの連携によって、より健康的なライフスタイルを実現するためのインセンティブを被保険者に提供したのです。リワードやインセンティブの制度が組み込まれているこのエコシステムは、被保険者の健康づくりを把握し、特典を付与できるようになっています。保険料の見直しから始まり、エコシステム内の加盟店舗での割引や、健康的な生活を管理するデバイスの統合など、より直接的なインセンティブへと移行していきました。高齢の被保険者向けには、主に在宅ケアサービスの一環としてスマートホーム・テクノロジー関連のデバイスも提供しました。

その結果、一連のプログラムに参加した被保険者は、コレステロール値や血糖値などのKPIが改善され、より健康なライフスタイルを実現していることが、その後の調査で明らかになりました。より顕著だったのは、プログラムに参加した被保険者は、参加しなかった被保険者に比べて、入院率や救命救急室搬送率が35%以上低減し、体の不調を訴える日数も50%以上も削減されました。

この米国企業は、医療保険という自らのビジネスの枠を超えて、他業種とのエコシステムを活用し、病気に対する単なる保証よりも、健康促進というより広範な価値を提供するという戦略によって、業績や企業価値を大きく向上させました。この戦略を実行してから5年間で、時価総額が上がったのはもちろん、株価も110%上がり、業界においてリーダーのポジションを確立しました。

こうした例から、企業がコアビジネスから少し離れて、その先にある価値や目的を基にしたエコシステムを形成することが、大きな価値をもたらすことがわかります。

図2:エコシステムにおける役割の選択

エコシステムを成功に導くために何が必要か?


業界横断エコシステムをうまく展開するには、エンド・ツー・エンドで物事を考え、実行する必要があります。そして、具体的に何が必要かを、戦略面、運用面、そして技術面という三つの側面から考えなければなりません。

戦略面では、まず必須なのが目的を設定すること。つまり、参加したいと思わせることができる価値中心のエコシステムとはどのようなものなのかを考えることです。さらに、パートナー横断のネットワークを駆使して、いかに一連の製品やサービスを統合し、価値の組み合わせ(バリュー・プロポジション)を顧客に提供できるかを追求する。そして最後に、顧客に対し、夢中になれるカスタマー・エクスペリエンスを確実に提供し、エコシステムにとどまるようにすることが重要です。

運用面では、戦略的なマインドセットが求められます。最も重要な要素は、業界別の縦割りの統合を目指すのではなく、水平方向の業界横断的な協働を図ることです。エコシステム内の参加者それぞれが自立的、自主的かつ自律的であることも求められます。さらに、全体的な目的とガバナンスを持ちながらも、中央集権的であってはなりません。より高い柔軟性と相互運用性を有し、元の設計に制限されることなく、新たなサービスが拡充されていかなければなりません。このモジュラー性と相互運用性の実現には、綿密なコミュニケーション、信頼、そしてガバナンスが必要です。これら全てが、事業を営む在り方に大きな変化をもたらします。

技術面で重要なのが、エコシステムにシームレスな流れを生むことです。顧客に価値を提供し続けるには、エコシステムが顧客中心の視点を持ち、事業体横断でカスタマー・エクスペリエンスを統合できていることが鍵となります。前述の相互運用性と業界横断の協働を支え、実現するには、マイクロサービスやAPIなど、さまざまな技術的手法を切り口としたアプローチが必須です。こうした包括的な製品やサービスの創造には、ダイナミックな価格設定を可能にする柔軟性も必要です。そしてそのためには、全ての参加者間で、透明で、納得性の高い価値配分のメカニズムが必要となります。

 

エコシステムにおいて担うべき役割は?


エコシステムでは、果たすべき役割についての選択肢があります。

まず、考えられる選択肢が、エコシステムのアンカーになること。エコシステムの形成や運営において主導的な役割を果たす側に立つかどうかの選択は、その企業が、エコシステムが創造する価値において圧倒的なシェアを持っているかによって判断、決定されるべきです。また、リスクがあり、企業による介入を必要としている主要顧客セグメントはどこかを見定める必要があります。

ただし、エコシステムを活用する方法は、アンカーになることだけではありません。参加者になるという戦略的選択肢があることも念頭に置くべきです。自社の提案できる価値が、複数のエコシステムに適用できるものであれば、必然的にさまざまなエコシステムに参加する方を望むでしょう。これはリスク回避という面からも取り得る選択肢で、複数のエコシステムに参加することでリスク分散を図ることもできます。どちらも有効な戦略です。重要なのは、どちらかを戦略的に選択し、それを実行し続けることです。

 

エコシステムがもたらす意識改革


エコシステムは、Business4.0の時代におけるビジネスの必須事項となるとともに、企業風土改革、マインドセットの変革をもたらす要因ともなります。

マインドセットの変革とは、「社内の限られた資源をいかにムダなく活用するか」という意識から、「エコシステムから得られる豊富な資源をいかに有効に活用するか」という意識への変化です。ここでいう資源とは、人材やデータ、ケイパビリティや資金などです。エコシステムは、共通の目的を持ち、戦略的目標を達成しようと協業するためのネットワークをつくり上げることで、こうした豊富な資源を有効活用することが可能となります。

それぞれの独立した存在が集まって、一緒にビジネスを展開する、そうした緩やかな協働を通じて、顧客にエコシステムの参加者全てを通したシームレスな体験を提供することができ、同時にビジネス上のリスクを一元的に背負うことも避けられます。

このように、エコシステムは企業のマインドセットに大きな変革をもたらします。このエコシステムがもたらす意識改革こそが、デジタル・トランスフォーメーションの成功の鍵を握っているともいえるのです。

 

ラジェシュ ゴピナタン

タタコンサルタンシーサービシズ 代表取締役社長 兼 CEO
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ 取締役会議長

 

2013年よりタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)のCFO(最高財務責任者)を務めた後、2017年2月にCEO就任。ラジェシュの指揮の下、2018年4月には時価総額が1,000 億ドルを超え、ブランド価値は23%増の120億ドルとなり、2年連続で世界トップ3のIT サービスブランドに位置付けられている。

2001年にタタ・グループのハイテクおよび新規事業を推進するタタ・インダストリーズ社からTCSに入社。TCSにおいて、米国で新規eビジネスを立ち上げ、新たな組織体制や経営モデルの設計・構築・実行に取り組んだ。また、TCSの各業務ユニットの財務管理を担った。2019年、世界有数のブランド価値の格付け会社Brand Financeの「Brand Guardianship  Index」において、世界のCEOトップ100の1人に選ばれ、また、ニューヨークで行われた、企業CEOを中心とした社会価値推進ネットワークChief Executives for Corporate Purpose(CECP)の年次委員会のイベントで「CEO Force for Good Award」に選出された。

2014年、インド経営大学院(IIM)アーメダバード校から「Corporate Leader」分野の「Young Alumni Achiever’s Award」を授与された。

 

 

 

※掲載内容は2020年3月時点のものです。