INNOVATION INSIGHT

R&I (Research and Innovation)を成功させる五つの柱

~CTOの歩み~

 

ソニーが3.5 インチのフロッピーディスクの製造を始めた1981年、東芝は大衆向けラップトップPC の製造を検討しており、任天堂のドンキーコングはゲームセンターを席巻していました。同年、タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)はインドのプネにTCS にとって最初のラボとなるTata Research Development and Design Centre(TRDDC)を立ち上げました。この立ち上げに至る過程で、TCS はR&D に関して以下をはじめとする重要な方針を定めました。

  • 幅広いソフトウエア技術に目を向けること
  • R&Dの成果をお客様の課題を解決するサービスに充てること
  • ソフトウエア開発をプログラマー個人の技量に頼らない、一つの科学分野に進化させること
TRDDC (インド、プネ)

 

この方針決定は、TCS のR&D を成功に導く大きな決断でした。そしてTRDDC は、設立後の10 年間でソフトウエアの開発を自動化するための幾つかのツールを開発。今では、TCS の強みの一つとして、お客様の大規模プロジェクトを高品質かつスケジュール通りに完遂するために大きく貢献しています。

こうしたTRDDC の成功を受けて、計算生物学、パフォーマンスエンジニアリング、機械学習、組み込みシステム、音声・自然言語処理など、専門性の高いさまざまなR&D センターを開設しました。また、多くの有名な大学研究所と有益な提携関係を築いていきました。

TCS が飛躍的な成長を続け、また技術が急速に発展する中で、R&DをTCS の戦略分野と位置付け、明確なビジョンを打ち出すべきとの考えが示されました。こうしてTRDDC 設立25 周年を迎えた2006年に、TCSのR&(I Research and Innovation)を支援する組織としてCorporate Technology Office(CTO)が創設されました。並行して、オープンイノベーション・モデルを導入したTCS Co-InnovationNetwork(TCS COIN)の構築も始まりました(オープンイノベーション・モデルの概要については 2015年Autumn号 でご紹介しています)。

ここでは、30 年以上にわたるTCS のR&I を成功に導いてきた五つの柱をご紹介します。

 

  • 適切な人材を集める
    知識の比重が増した今日の経済活動において、人材は重要なリソースです。幸運なことに、TCS の各研究所は、科学的探究を育む学術機関で教育を受けた優秀な人材を迎えることができました。優れた研究者は、さらに多くの優秀な研究者を呼び込みます。だからこそ、明確なキャリアパスとそれに見合った報酬を定めることが重要です。
  • 実社会で科学的探究の場を与える
    TCS では研究者に主要な学会で論文を発表することを義務付けています。実社会の問題に取り組む一方で、最先端の基礎研究も進めていく必要があるからです。そうすることで、トイプロブレム(実社会から離れ、決められたルールの中で最適解を探す問題)にとらわれることなく、学術界と開発現場の双方と接点を保つことができます。研究者には、両方の世界で活躍する機会を与えることが重要です。
  • サポート体制を整える
    R&I 組織が大きくなり研究内容が複雑になるのに合わせ、TCS は健全なR&I を促進するために、あらゆる側面から研究をサポートする体制を整えました。
    • Evangelize(伝道)チーム
      研究者とお客様の両方に関わる大変ユニークなチームです。研究を「実社会に役立つものにする」ことを目指すこのチームは、研究者に市場の動向を伝えることで、新たな注目技術への関心を促し、それらの技術に関連した課題や機会にも目を向けさせます。
    • IPR(知的財産権)チーム
      研究者が考案した新たなプロセスやオファリングの一つ一つを評価し、特許出願の是非を判断します。出願の際は、その手続きも支援します。
    • 障壁のない連携
      組織がグローバルに拡大しチーム間の距離が遠くなると、他のチームがどのような専門知識を持っているかが見えにくくなる場合があります。一方、お客様のアプリケーションは、今や多分野にまたがっています。例えばロボティクスの世界では、さまざまなハードウエアに加え、ディープラーニング、画像処理、モーションプランニングといった複数のモジュールが関わっており、それらを統合した対応が求められます。これを実現するには、各地の異なる専門分野のチーム間の連携が必要になります。またTCS は、イノベーションラボや、さまざまな技術領域に特化したスペシャリストであるCoE(Center of Excellence)のネットワークにより、物理的距離や分野の壁を越えて連携の取れた研究活動を行っています。
      世界中に拠点を持つTCS では、独自に開発した社内SNS「Knome」やAP(I Application Program Interface)、プログラミングコンテスト「Code Vita」、学生とTCS 社員とのコミュニティー「CampusCommune」など、チーム間の連携を円滑にするプラットフォームを用意しています。
  • 失敗を活かす
    R&I のプロセスに失敗はつきものですが、多くの企業は失敗について語ることにあまり積極的ではありません。しかし、頓挫した研究プロジェクトや、お客様に採用されずに一度はお蔵入りしたプロジェクトが、いつか活路を見いだし、需要を生まないとも限りません。ですから成功に至らなかった研究プロジェクトについてもドキュメントを残し、そのアイデアを共有し、さらにはその意義を認識することが重要です。
    タタグループでは、イノベーティブなアイデアを競うInnovista コンテストの「Dare to Try」(そのチャレンジをたたえる)というカテゴリーで、不採用となったアイデアを表彰しています。TCS でも同様の表彰制度があり、たとえうまくいかなかったとしても良いアイデアを評価しています。
  • 自らのイノベーションモデルを改革する
    TCS は他社に先駆けてソフトウエアラボを設立した会社の一社です。そして同業他社よりいち早く、自前主義を脱して、オープンイノベーションによるエコシステムに移行しました。また、TCS はイノベーションにポートフォリオの手法を取り入れており、CTO の設立以降、ビジネス部門にもその波及効果が表れています。

 

最後に、これら五つの柱に支えられて展開したR&I の事例の一つとして、TCS の研究者と学術機関とのパートナーシップによるプロジェクトをご紹介しましょう。TCS のDr. Swagat Kumar 率いるロボティクスグループ(インド・デリーのイノベーションラボ)の研究員と、インド工科大学カンプール校のDr. Laxmidhar Behera 率いるインテリジェントシステムズラボラトリーによる合同チームは、Amazon のロボット開発コンテスト「Amazon Picking Challenge」に参加しました。

Amazon Picking Challengeの様子

 

物流センターで棚やパレットをそっくりそのまま移動させることならロボットにもできますが、受注処理の最後の部分はやはり人の手に頼らざるを得ないのが現状です。Amazon では、棚から特定の品を取ってそれをボックスコンテナに入れ、コンテナから物を取り出して棚に積み重ねる作業は人の手で行われています。しかし、短期間に数百万ドル分の注文が殺到するホリデーシーズンにはこれは大きな問題となります。人手を確保するのは難しい上、梱包作業員は倉庫内を一日中歩き回り、なおかつ正確に作業しなければなりません。こうした課題の解決策は自動化しかありません。

そこで、このチャレンジでは「pick task」(「ピッキング」)と「stow task」(「格納」)の二つの部門で競われました。「ピッキング」部門では、注文ファイルをもとに、15 分の制限時間内に商品棚から12 のアイテムを取り出し、落としたり傷つけたりせずにコンテナに入れることが要求されます。同様に「格納」部門では、注文ファイルをもとに15 分以内に12 のアイテムをコンテナから取り出し、落としたり傷つけたりせずに棚に戻します。

使用できるロボットシステムやセンサーの種類・数に制限はありませんが、競技中は遠隔操作を含め一切人の手を借りてはならず、自律的に行動することが求められます。

TCS の合同チームはRobotnik 社の研究用グレードのロボット、X-WAM モバイルマニピュレータシステムを使用しました。同ロボットはBarrett 社のWAM ロボットアームと、4 基の高出力モーターホイールを持つモバイルプラットフォームを組み合わせており、最大毎秒3 mのスピードで走行可能です。ロボットのアーム先端に取り付けるエンドエフェクタには吸引デバイスを使用しました。

物体認識には、まずディープラーニングネットワーク(Fast RCNN)がクエリオブジェクトに適合する候補群を挙げ、最終的な決定は物体の形に基づき新型の記述子(ディスクリプタ)を通じて行うというハイブリッド型のシステムを採用しました。ハイブリッド型にすることで、ロボットをトレーニングする時間を短縮することができました。ディープラーニングネットワークは、40の異なるオブジェクトの6,000 種類の画像テンプレートを使ってトレーニングしましたが、その時間は、メモリ2GB のNVIDIA Quadro K2100M GPU を搭載したDell Precision M4800 ノートパソコンで約24 時間でした。にもかかわらず、物体認識システムのレスポンスタイムは一つのオブジェクトにつき約1 秒でした。極めて優れた認知アルゴリズムのおかげで、ロボットはミスなくオブジェクトを選択することができ、競技に参加した幾つかの産業グレードロボットやヒューマノイドをしのぐパフォーマンスを見せ、「格納」部門において5 位入賞を果たしました。

このように、TCS では組織内のR&I を常に活性化させ、お客様のビジネスに貢献する体制を整えています。絶えず変化し複雑さを増すこの世界で、TCS は変化をリードし、お客様のビジネス課題に業界トップクラスのソリューションを提供しながら革新と進化を続けていきます。Innovation Insights では引き続き、最高水準(Excellence)を目指すTCS の取り組みをお伝えしていきます。

 

掲載内容は2016年10月時点のものです。