1000分の1秒への挑戦

#1 勝利を信じる力の源泉

TCS NAKAJIMA RACING 加藤祐樹エンジニア

 

TCSは、スポンサー兼テクノロジーパートナーとして、SUPER FORMULAに参戦する『TCS NAKAJIMA RACING』をご支援しています。SUPER FORMULAへの取り組みをご紹介する本連載の初回特別編として、TCS NAKAJIMA RACINGの加藤エンジニアにご登場いただき、レースの戦略立案を担当するエンジニアの視点からフォーミュラレースとデジタルについてお話しいただきました。


車の総責任者として

車の総責任者として、レース戦略全体に関わる

 

僕は車がずっと好きでした。車で走ることが好きで、学生の時からレースに参加しており、自動車に関わることがしたいと思っていました。車に携わる分野というのは様々ありますが、その中でも、一般車の開発よりはレースに関わりたいという想いを持っていました。大学院を卒業した後、レースへの想いはずっと持ちながらも、自動車の技術開発を理解し、通用する形になってから挑戦してみようと自動車メーカーに就職しました。数年の後、大学時代のご縁で、「チームを強くするために技術的なアプローチができる人に来てほしい」と中嶋レーシングから声を掛けていただき、モータースポーツへのチャレンジがスタートしました。そのチャレンジを本日は少しお話ししてみたいと思います。

僕のチームの中での役割は、一言で言うと「車の総責任者」です。レースは、サーキットに来る前の車の準備が重要で、少しでも車を速く走らせるために、車をどう仕立てるかを常に考えて、エンジニア・メカニックと試行錯誤しています。レース開催時には、限られた時間の中で、どのタイヤを使って、何周して、どのように走るか、何を確認するか、そして、ピットに帰ってきたときにどのように車のセッティングを変えるかの指示を出しています。サーキットでは自由に練習ができるわけではないため、これまで作り上げてきた車が最大のパフォーマンスを出すためにどうすればよいかを検証し、本番に向けて調整する必要があるのです。

 

膨大なデータとレース

レースの現場の仕事って、数字がたくさん存在しているんです。例えば、車高やバネの硬さもそうですし、コースのどこを誰が走っているかや路面温度など、手に余るぐらいのデータが転がっています。データは紙で渡されることもあれば、専用モニターが必要だったり、確認の仕方も様々でした。以前は手に入るデータを見て、「あ、そうなんだ」と思うだけで終わりにすることもありました。データが情報として適切に処理できないまま、無駄に捨てられている状況が数年前にはあったのです。TCSと組ませてもらってからは、デジタル技術を活用し、どのように多くの情報をいかに可視化し、手の内にし、料理して、最善のアクションに繋げるツールを一緒に開発させてもらっています。

タイヤ戦略はレースの結果を大きく左右する

レースは、当日よりもそれ以前の車の準備が重要で、走ってみてダメだったからその場でセッティングを直そうと言うのは難しいんです。だから、作り上げてきた車以外の要素をいち早く把握することが大変重要になります。

例えば、新品のタイヤを使って走ると良いタイムが出るのですが、準備として数周走ってタイヤを温める必要があります。ですが、何周走って温めればいいのか、会場も天候もいつも違いますから、実際に走ってみなければわからない。ドライバーも心配なので、何周走れば十分なのか質問してくるのですが、「温まった気がしたら行ってくれ」なんて感覚的なことは言えません。失敗したら結果に残らないどころか、そもそも練習にすらなりません。そこをサポートしてもらっているのがTCSと開発しているツールです。簡単に説明すると、得られるデータを一元化し、戦略を決めるための「情報」として把握できるようにし、一つの画面で確認できるような仕組みです。自分たちの走行結果の把握はもちろんのこと、周りのチームが何をやっているか、どんな結果が出ているのかが、走行中の段階で把握できることが判断の助けになっています。これまではデータの取得方法や確認方法がばらばらで、走行タイムや状況の把握がしづらい場面がありました。現在は、走行タイムだけでなく、天候や路面温度などとの関連性を推測し、必要な時に必要な情報にアクセスできると言う点が、瞬時の判断に非常に役に立っています。自分たちの状況と他チームとの状況を比較し、戦略判断に必要な情報を得て、決定・実行することができる。たった1周の作戦ミスが命取りになるレースにおいて、情報をどう活用するかは本当に重要なのです。

 

エンジニアとドライバー 信じる力の源泉

レース開始直前まで、ドライバーとの情報共有を入念に行う

 

これまでの数年、デジタルによるデータ活用を切り口とした取り組みをしてきましたが、成果が出たと強く感じたのは、2019年のSUPER FORMULA最終戦・鈴鹿大会の予選です。2019年のチャンピオンシップがかかっている中の大事な予選でした。予選のQ2⋆1 では、コースを2周走行してタイヤを温めてから3周目にタイムアタックしたのですが、結果は芳しくなく、違和感を感じました。すぐにツール上で状況を確認して、「トップタイムを出したマシンは2周目でいきなりアタックしている」と気付き、ドライバー⋆2 にすぐ伝えることができました。ドライバーは「次の走行でチャレンジしたい」と言ってくれたので、タイヤのセッティングを戦略に合わせて調節し、Q3に臨みました。ドライバーは、僕の提案を信じ、1コーナーからプッシュしてすぐアタックしてくれました。鈴鹿サーキットの1コーナーって、ものすごく速度が出て、簡単に失敗してしまうコーナーなんです。僕の提案を彼が本気で信じていなかったら、ここまで積極的に攻めることはできなかったでしょう。果敢なアタックの結果、ポールポジション⋆3 を獲得することができました。データと戦略が見事にはまった。これは忘れられない成功体験でした。ドライバーももちろん素晴らしかったのですけれど、彼が走行前に心の準備をすることができたのは、僕が先に勝利に必要な情報を伝えられたから。僕が自信を持って彼に伝えることができたのは、TCSと開発してきたツールによって判断指標としてのデータの可視化を実現できていたからだと感じています。

 

数字の世界を料理する

これまでお話ししてきた、レースの外的要因の可視化は着実に進んでいますが、使える情報として処理できていないものがまだ多く存在しています。どの車がどの箇所をどんなタイムで走っているかとか、まだまだ基本的なことだけれども、可視化が実現できていないことをまずはやりきる。それが直近の課題です。

アナログとデジタルの良いところを活かす

 

また、チーム内の密なコミュニケーションも以前にも増して重要になってきています。チームに相当数の人数がいるなかで、誰かが戦略を把握していないと失敗に直結します。結果こそが全ての世界ですから、コミュニケーションの質やスピード自体もアップデートしていく必要を感じています。情報のリアルタイム性の重要度も同じく高まってきており、グループウェアやタブレット・スマホなどを活用し、コミュニケーションにデジタルを活用する動きも出てきています。ただ僕自身は、手書きの良さも感じていて、手になじんだ革のホルダーに挟んだ紙に書くということで頭の整理になっていたりします。なんでもデジタルにすればいいというわけではなく、アナログもデジタルもいいとこ取りしながら情報整理・共有を効率化していけばよいと考えています。一方で、若手のエンジニアはタブレットをノート代わりに使っている人もいて、「どのように活用できてますか?」って逆に聞いてみたいです。

今は周囲の状況を可視化するのに注力している段階ですが、もう少し先の将来には、車のセットアップに関わる「車の中の数字の世界」をいかに料理するかに挑戦してみたいと思っています。

 

--注釈--

⋆1 予選は3回走行があり、ラップタイムを競う。ノックアウト方式で行われ、Q1、Q2、Q3と進む。

⋆2 当時、アレックス・パロウ選手。

⋆3 予選1位のこと。決勝戦は予選上位の順にスタート位置が決まるため、予選の順位が決勝の結果に大きな影響を与える。

 

加藤祐樹

TCS NAKAJIMA RACING
トラックエンジニア

1986年12月3日生。埼玉県出身。

2011年に自動車メーカーに入社するが、大学時代の縁で中嶋企画へ。

その後、SUPER FORMULAでは2017年の第4戦からトラックエンジニアに。

http://www.nakajimaracing.co.jp/

 

※掲載内容は、2020年9月17日公開時点の情報です。(AM)

 

関連ページ

全日本スーパーフォーミュラ選手権(SUPER FORMULA)について

https://www.tcs.com/jp-ja/SportsSponsorship/SuperFormula

 

SUPER FORMULA2020年シーズン

https://www.tcs.com/jp-ja/SportsSponsorship/SuperFormula2020



Related Contents