日本TCS について
日本TCSは、タタコンサルタンシーサービシズと三菱商事の合弁会社として2014年に発足しました。日本のお客さまに最適な形で、TCSが世界中の企業との変革を通して積み上げてきた知見、経験、スケールをお届けし、日本企業の競争力強化に貢献しています。
日本企業には、世界で評価される技術、品質、文化、そして人の力があります。しかし、優れたものを持っているだけでは、その価値は世界に届きません。
重要なのは、自社の強みを捉え直し、異なる市場の文脈で価値を伝え、事業として成立させる経営です。
本稿は、TCS Japan Academyの社員向けプログラム「India Discovery Program」における、亀田製菓株式会社 代表取締役会長 ジュネジャ レカ ラジュ 氏の講演を基に、グローバル経営とイノベーションを実行に移すための示唆を紹介します。
亀田製菓株式会社
代表取締役会長
ジュネジャ レカ ラジュ氏
ジュネジャ氏が約40年にわたる日本での生活を通して感じてきたのは、日本が持つ価値の厚みです。安全・安心な社会、人の優しさと誠実さ、細部に妥協しないものづくり。そして、食感のわずかな違いまで言葉にできる繊細な感性。これらは、日本では当たり前に見えても、世界から見れば明確な競争力になり得ます。
一方で、その価値が十分に言語化され、世界へ伝えられているとは限りません。高品質な製品をつくることに注力するあまり、なぜその品質に価値があるのか、どのような技術や文化がそれを支えているのかを、市場に伝え切れていない企業も多いと言います。
「良いものを持っていること」と「その価値が市場で評価されること」は同じではありません。経営に求められるのは、技術を製品に変えるだけでなく、製品の価値を顧客が理解できる物語へと変換し、適正な価格と成長につなげることです。
「日本で培われた価値を改めて捉え直し、世界に伝える。そのために、自ら外へ出て世界を知ることが必要です」
海外展開というと、日本で成功した商品を他国へ持ち込むことが先に考えられがちです。しかし実際には、現地市場への理解を深めながら価値を適応させることも重要となります。
宗教、文化、食習慣、味覚、使用できる原料は国や地域によって異なります。インドでは、動物由来原料を避ける人も多く、日本の商品をそのまま展開すれば、対象となる顧客を大きく限定しかねません。
亀田製菓が目指すのも、日本の米菓を一方向に輸出するだけのモデルではありません。日本で培った加工技術や品質への考え方を生かしながら、各国の米と食文化に適応し、現地の生活者に選ばれる商品をつくる。技術の中核は維持しつつ、価値の届け方は市場に合わせて変える。この両立が、持続的なグローバル成長を支えます。
これは食品業界に限りません。自社の製品を起点に市場を見るのではなく、顧客の課題と現地の文脈を起点に、自社の技術を再構成します。グローバル経営とは、輸出量を増やすことではなく、異なる市場で価値を生み出せる経営能力を組織に実装することです。
ジュネジャ氏のキャリアには、一貫した視点があります。世の中にまだ知られていない価値を見つけ、科学と事業の力で市場へ届けることです。お茶に含まれる成分、卵が持つ栄養、そして米の可能性。どれも日常的な素材ですが、見方を変えれば新しい価値の源泉になります。
亀田製菓が掲げる「ライスイノベーションカンパニー」という方向性も、その延長線上にあります。米菓メーカーという既存の事業定義にとどまらず、米を起点として、健康、栄養、食物アレルギー、プラントベース食品、災害時の食料、高齢化、環境負荷といった課題に応えます。自社のコア資産を守りながら、その用途と提供価値を広げる試みです。
成熟企業にとって、イノベーションは必ずしも未知の技術をゼロから生み出すことだけを意味しません。長年蓄積してきた素材、技術、顧客理解、供給網を、新しい社会課題との組み合わせで捉え直すことも重要なイノベーションです。経営層には、自社を現在の商品カテゴリーで定義するのではなく、「何の価値を生み出せる会社なのか」という視点で再定義することが求められます。
ジュネジャ氏は、グローバル化を海外部門だけに委ねることの限界も指摘します。現地市場に適応した価値をつくるには、開発、調達、生産、品質保証、販売、人事など、組織全体が世界を意識しなければならないからです。
必ずしも大規模な組織再編や人員増強から始める必要はありません。まず必要なのは、全社員がグローバル事業との接点を理解することです。組織の縦割りを越えて知見を共有し、国内外の拠点を横につなぎ、同じ目的に向かって動く。そのマインドセットの変化が、制度や組織図に先行します。
人材についても同様です。日本語ができるかどうかだけではなく、専門性、発想、学習意欲、そして組織に新しい視点をもたらす力も含めて、海外人材の可能性を捉えることが重要です。
AI翻訳や同時通訳など、言葉の壁を下げる技術は進歩しています。経営が見るべきなのは、専門性、発想、学習意欲、そして組織に新しい視点をもたらす力です。多様な人材を採用するだけでなく、活躍できる環境を整えることが、グローバル経営の実行力を左右します。
新しい事業を進める際、企業では人、予算、資料、前例がないことが障壁になりやすいです。ジュネジャ氏は、自身の経験を通じて、リソース不足を理由に可能性を閉ざすべきではないと語ります。良い技術や素材があるなら、自ら研究し、顧客を探し、パートナーを見つけ、市場をつくります。限られた条件の中で進める方法を考えることが、経営と起業家精神の役割です。
ただし、挑戦は精神論だけでは続きません。ジュネジャ氏は、「人」「イノベーション」「利益」を結び付ける必要性を説きます。利益がなければ、次の研究開発も、社員への還元も、継続的な社会貢献もできません。社会課題への貢献と事業性を対立させず、価値を利益へ転換し、その利益を次の挑戦へ再投資する循環をつくることが重要です。
講演の終盤、ジュネジャ氏は「世界一になろうと思うなら、世界一になるための準備をするでしょう」と語りました。目標を掲げるだけでは何も変わりません。世界でどのような価値を提供するのか、そのために誰と組み、何を学び、どの能力を組織に持たせるのか。具体的な準備へ落とし込むことが必要です。
その過程では、組織や業界の枠を越えること、失敗を恐れずに挑戦すること、異なる立場の人と対話を続けることが欠かせません。ジュネジャ氏が繰り返した「一期一会」という言葉も、単なる心得ではありません。人との出会いから新しい知見や機会を得て、それを行動へ変えることが、イノベーションの起点になるという経営上のメッセージです。
良いものを持っているだけでは、世界には届きません。日本企業が次の成長を実現するためには、自社の価値を信じるだけでなく、それを世界の顧客に伝わる形へ変え、現地で実装し、持続可能な利益につなげる必要があります。ジュネジャ氏の講演は、日本企業が自らの強みを生かしながら、グローバルな成長機会を広げていくための示唆を提供しています。
経営層への5つの示唆
2026年7月時点
* 本稿は、TCS Japan Academy「India Discovery Program」におけるジュネジャ レカ ラジュ 氏の講演・資料を基に、日本TCSにて編集・再構成したものです。
* 本資料に含まれる著作物の著作権は亀田製菓株式会社、ジュネジャ レカ ラジュ 氏、または正当な権利をもつ第三者に帰属します。
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日本TCSは、タタコンサルタンシーサービシズと三菱商事の合弁会社として2014年に発足しました。日本のお客さまに最適な形で、TCSが世界中の企業との変革を通して積み上げてきた知見、経験、スケールをお届けし、日本企業の競争力強化に貢献しています。
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