イベントレポート
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)は、2025年8月6日(水)に開催された「SAP NOW AI Tour Tokyo & JSUG Conference」にスポンサーとして協賛し、出展しました。
展示ブースにおいては、「RISE with SAP」「SAP SuccessFactors」「SAP-PLM連携」など6つのサービスを具体的な導入事例とともに紹介しました。またセッションでは、「次世代生成AIによる意思決定支援:TCS × Vianai提携の展望」と題して、業務提携したVianai Systems社(以下、Vianai)のCEOであるDr. Vishal Sikka氏を登壇者に迎え、エージェンティックAIがビジネスの意思決定にもたらす影響の大きさを紹介しました。
SAP S/4HANAの導入は、分断された業務の統合やデータの一元管理、旧バージョンからの移行などが主な目的です。TCSの強みは、SAPのユーザーやサービスパートナーであるだけでなく、SAP社が提供するサービス(HECなど)や新製品開発にサプライヤーとして参加する、360°のリレーションシップを築いていることです。そのため、システムの立ち上げに要する時間を短縮でき、コスト削減にもつながります。
AI活用では、自然言語でのレポート作成や生成AIによるコーディング支援を提供。これにより業務効率化と開発生産性の向上が可能になります。導入企業からは「立ち上げまでのスピード」「コスト削減」「運用効率化」が評価されており、来場者も事例やノウハウに高い関心を示していました。
日本企業の人事部門はグローバル対応がまだ十分ではなく、国内サービスに依存しがちです。そのため、「人材を経営にどう生かすか」という視点が海外に比べて不足している点が課題となっています。会場では「人的資本を経営戦略の中心に据えることが成長の鍵」と今後のHRの在り方も併せて説明しました。
TCSは、設計情報管理ツール「Teamcenter」とSAPの連携を国内で初めて実現した実績を有し、製造業を中心に高く評価されています。従来はExcelによる手作業で情報を移していたため入力の手間やミスが課題でしたが、SAPとTeamcenterをシームレスに連携させることで、情報の一元化により在庫ロスや工数の削減といった成果が現れています。来場者からは「設計情報を会計システムにどう反映させるのか」「マスター情報の更新タイミングはどう管理しているのか」といった実務に直結する質問が多く寄せられました。
TCSは単なるシステム移行ではなく、課題のヒアリングから解決策提示、導入方法の明示、成果測定まで伴走します。特にSAP ECC6.0を長期利用している企業における「高額投資」や「現場の工数負担」といった課題に対して、「次につながる改善」「明確な価値の創出」を重視しています。また、幅広い業界知見や、SAP社との360°リレーションシップ、海外の最新事例を日本に応用できる点も強みです。
TCSは、「運用による価値創出」を提案しています。特に「安価でグローバル一体のサービス提供」を軸に、日本企業の海外展開を支援しており、グローバルサポート、多言語対応、現地拠点を活かし、運用コスト最適化やAI活用ソリューションで高い評価を得ています。
Vianaiの対話型AIソリューションは、チャットのように自然言語で質問できる点が特徴です。質問を入力すると7~10秒でチャートやテーブル、グラフを返し、複雑な処理でも2分ほどで完了します。これにより業務の非効率を解消し、短時間・低コストで分析を可能にします。
導入企業の多くはSAPユーザーで、M&Aにより複数のシステムを抱えるケースが多くあります。通常ならデータ統合や移行に長い期間とコストを要しますが、Vianaiのソリューションは既存システムを置き換える必要がなく、複数のデータソースに直接アクセスしてすぐに回答を返します。そのため、複雑な統合作業を待たずに高度な分析を実現できます。
具体例として、大手素材メーカーではERP移行に3年かかる見込みでしたが、Vianaiを活用することで移行の途中からでも最新の分析環境を使えるようになったことが紹介されました。
日本TCSとVianaiによるセッション「次世代生成AIによる意思決定支援:TCS × Vianai提携の展望」では、エージェンティックAIが持つ高度な分析力と即応性を、企業の複雑なIT環境や経営意思決定の現場で適用する方法が具体的に示されました。登壇者は、VianaiのCEOであるDr. Vishal Sikka氏、日本TCS 専務執行役員の森 誠一郎、TCS Enterprise Solutions UnitのDirectorであるBruno Follyの3名。日本TCS パートナーエコシステム&アライアンス本部 アライアンスマネージャの齋間 秀雄が司会を務めました。
エージェンティックAIを中核とする分析プラットフォーム「hila」を展開しているVianai。Sikka氏は、TCSとの提携について「Vianaiの生成AI技術とTCSの業界知見を組み合わせることで、現場の意思決定プロセスに即した実践的なソリューションを提供できる」と語り、提携の意義を強調しました。
本セッションで繰り返し語られたのは、企業の現場が抱えるシステム環境の複雑さ。「ERPやレガシーシステム、Excelマクロ、複数のダッシュボードなど複雑なIT環境を抱える企業が多く、データは統合されているものの、部門ごとに粒度や意味付けが異なるため、必要な情報をリアルタイムで取得できない状況が散見される」と森が課題を指摘すると、Sikka氏は意思決定する現場の典型的な課題として以下を提示しました。
〇レガシーシステムの複雑さ
:古いERPやExcelマクロが混在しており、データ統合や最新化が困難
〇複雑なデータソース
:財務情報、顧客データ、在庫情報、サプライチェーンデータが複数システムに分散
〇分析の属人化
:特定担当者に依存しており、退職や異動で情報の継承が困難
〇統合分析の難しさ
:データ収集やレポート作成に数日〜数週間かかり、経営層がリアルタイムに状況を把握できない
そして紹介されたのは、Vianaiが提供する意思決定支援プラットフォーム「hila」。その特長は、「スピード」「正確性」「既存資産との共存」の3つです。
ユーザーが自然な言語で入力すると、AIが複数のチャートを生成し、追加質問にも対応する「対話型操作」が可能です。Sikka氏は「従来は専門知識が必要だった高度分析を誰でも即座に行えるようにし、人とAIが協働して最適な意思決定を実現することが目標だ」と述べました。
セッションでは、ファイナンス部門を想定したデモが行われました。「直近四半期の部門別コスト推移と主要要因を教えて」と入力すると、システムはERP・DWH・SaaSを横断的に検索し、わずか7秒でチャートを提示。さらに「前年同期との比較」「特定部門の増加要因の詳細」など、追加質問にもリアルタイムで応答しました。承認フローや関連タスクとも連携し、会話を通じて意思決定に直結する業務を進められる点も紹介されました。
続いて、Sikka氏は具体的な導入事例を紹介しました。
これらの事例から、幅広い業界で「スピード」「正確性」「既存資産との共存」が実証され、多くの企業が直面する課題に対して、規模を問わず大きな価値を持つことが示されています。
ERP、特にSAPを導入している企業は多くありますが、実際には従来のシステムや部門ごとのデータが残り、「統合と可視化」が十分に実現していないケースも少なくありません。この課題について、Brunoは「ERP導入後も複雑さが残り、意思決定を阻害している」と指摘。これに対し、Sikka氏は「Vianaiは既存資産を尊重し、対話型レイヤーを追加する“共存モデル”を採用している」と説明しました。さらに、マスターデータが事業所ごとに異なる場合でも、テンプレートとガバナンスで標準化を進め、効果が出やすい部門から段階的に導入することで迅速に導入可能となります。また、承認ワークフローや監査ログを組み込める点も特徴で、利便性とガバナンスを両立できることが強調されました。
セッションの要点は次の3点に整理されました。
これを受けて、Sikka氏は「現場に合った最適解を一緒に議論できることを楽しみにしています」と結びました。
TCSとVianaiの協業モデルは、企業の意思決定プロセスに新たな価値をもたらす先駆的な事例として、今後の重要なケーススタディとなるでしょう。