今後の戦略の鍵はAIではなくアーキテクチャの選択にある
MIT SMRとTCSによる最新の調査は、意思決定を磨くべきスキルとしてではなく、設計すべきシステムとして捉えるようビジネスリーダーを喚起
このページは、2025年7月15日(現地時間)、米国マサチューセッツ州ならびにインド・ムンバイで発表されたプレスリリースの日本語訳です。発表内容の詳細は原文をご覧下さい。
米国マサチューセッツ州ケンブリッジ | インド・ムンバイ、2025年7月15日: AIをデータ分析だけでなく、意思決定を見直し、再設計し、再構築して向上させるために活用することが、今後、企業にとって成功の鍵になるでしょう。MIT Sloan Management Review(MIT SMR:米国マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院が発行する経営学ジャーナル 兼 出版社)とタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)による最新の共同調査により、先進的は企業は「インテリジェントな選択アーキテクチャ*(ICA:Intelligent Choice Architecture)」を取り入れることで意思決定の質を高め、市場での優位性を確立していることが明らかになりました。
*人々が何かを選択する際の環境を設計し、望ましい行動を促す手法。
AIを活用したシステムであるICAは、プロセスの自動化と人間によるインサイトの洗練というふたつの側面を、かつてないほど高いレベルで両立させます。新しい戦略的な選択肢を積極的に生み出し、その結果から学習して、経営層が検討する選択肢の幅を拡張します。単に人間の判断をサポートするだけでなく、意思決定のあり方を根本的に変革します。人間とマシンはより良く連携できますし、また、そうあるべきでしょう。
「Winning With Intelligent Choice Architectures(インテリジェントな選択アーキテクチャで勝利する)」と題された今回の調査レポートでは、競争で優位に立つためには、単に人間の判断力を高めるだけでなく、人間が最終的に選ぶ選択肢をより充実させ、洗練させ、最適化するような優れたシステムを構築することが不可欠だと詳しく解説しています。
ICAに関する本調査は、MIT SMRとTCSが1年をかけて共同で計画・実施したもので、6つの主要業界のビジネスリーダーや経営幹部の知見が集められました。Mayo Clinic(メイヨークリニック)、Sanofi(サノフィ)、Cummins(カミンズ)、Walmart(ウォルマート)、Meta(メタ)、Mastercard(マスターカード)、Pernod Ricard(ペルノリカール)など、さまざまな企業の専門家や先駆的リーダーが参加しています。今回の調査で明らかになったのは、AIが「助言者」から「設計者」へと役割を大きく転換させつつあるという重要な変化です。この変化をいち早く適応した企業は、従来の意思決定の手法に捉われた企業を一歩リードしつつあります。
MIT Sloan School of ManagementのIDE(Initiative on the Digital Economy)のリサーチフェローで、本報告書の共同執筆者でもあるマイケル・シュラージ(Michael Schrage)氏は、次のように述べています。
「ICAはこれまでの常識を覆します。意思決定から学習するのみならず、意思決定がなされる環境を改善させる手法も学習します。これは情報の分析ではなく、いわば設計(アーキテクチャ)なのです」
ICAを導入する組織は、単に意思決定を自動化するだけでなく、意思決定がなされる環境そのものを設計します。この結果として、意思決定がより迅速、スマート、容易に行えるようになり、同時に責任の所在も明確になります。人間とマシンの役割は明確に定義され、検証可能で、組織の目的に合致したものとなります。
MIT Sloan Management Reviewのリサーチ担当編集ディレクターのデイヴィッド・キロン(David Kiron)氏は、次のように述べています。
「ここでは、AIは単にコ・パイロット(副操縦士)になるのではありません。AIと人間が共に設計者として協力し合い、人間が選択肢を認識し、評価し、意思決定するという一連のプロセスを再構築するのです」
ICAの必須要件
本報告書は、金融サービス、ヘルスケア、製造、物流の各業界の企業が、ICAのプロトタイプをどのように構築しているかを概説しています。ICAは、意思決定のリテラシーを高め、経営層の役割を、選択肢の判断者から、最適な選択肢を導き出し、選択のエコシステムを管理するキュレーターへと変貌させるものです。
本報告書は、成功はAIのケイパビリティよりもむしろ、組織的に体制が整備されているか否かにかかっていると指摘しており、企業に以下のような問いについて考察するよう促しています。
TCS AIプラクティス部門 ヘッドのアショク・クリシュ(Ashok Krish)は、次のように述べています。
「ICAは、人間の判断力をAIの知能で強化するものです。AIの役割をタスクの自動化から、人間がより優れた意思決定を下せる環境を構築することへと変えるのです。ICAは、AIが導き出した結果の根拠を明確かつ追跡可能にし、多くの判断要素が複雑に絡み合う状況において、それぞれの結果に対する説明を可能にします。これにより、組織の目標に見合った人材育成戦略が立てやすくなり、AI時代に高いポテンシャルを持つ人材を見出し、育成できるようになります。最終的にICAは、AIが提示する情報と人間の選択・判断とをスムーズに連携させることで、組織全体がひとつの知能として機能するようになり、よりスマートで根拠に基づいた意思決定を下せるようになります」
意思決定権を明確に設計しておくことが今や重要
今回の調査結果から著者らが警鐘を鳴らしているのは、もしもリーダーがICAを導入したシステムにおいて意思決定権を明確に割り当てなければ、そのシステムが勝手にその役割を担ってしまうということです。そうなると多くの場合、機械学習モデルが、内容が見えず、誰も監視せず、責任も負わないままに優先順位や妥協点、不履行などを決定してしまうことになります。
TCSコーポレートテクノロジーオフィスのバイスプレジデント 兼 ビジネスイノベーション部門ヘッドのサンカラナラヤナン・ヴィスワナタン(Sankaranarayanan Viswanathan)は、次のように述べています。
「企業にとって真の課題は、単により良い意思決定を行うことだけではありません。重要なのは、意思決定が、企業が優先したり見落としたりした選択の結果に過ぎないと認識することです。私たちに必要なことは、組織がさまざまな事象を適切に把握し、深く理解し、意識的に行動できるインテリジェントな選択アーキテクチャを支えるシステムです。「責任あるAI」には、結果だけでなく、どのような選択肢が検討され、どのように優先順位づけられ、どのような妥協がなされたのか、その全てを明らかにすることを求められます。これらがなければ、AIは、監視も修正もされないまま、黙って意思決定権限を掌握することになりかねません」
戦略的ポイント
ICAの登場は、根本的な変化の兆しです。これからの競争で優位に立つためには、意思決定の質を高めるよりも、そうした決定を下す環境をより良く設計することが重要になります。これは、リーダーシップのあり方も変えるでしょう。リーダーは、ただ判断を下すだけでなく、より良い意思決定ができるような場を設計する役割を担うことになります。
ICAは単に自動化が進化することではなく、選択そのものの未来の姿を示しています。選択を設計の観点で捉え直す、つまり、選択肢が実際に検討される前に、結果に影響を与えるようないわばメタ選択(選択の前提となる、より上位の選択)をどう構造化し、顕在化させ、充実させていくか、という視点を持つとことです。
本報告書のダウンロードはこちら
以上
MIT Sloan Management Reviewについて
MIT Sloan Management Review (MIT SMR)は、激動する世界における企業のリーダーシップや組織運営の変貌を探求しています。テクノロジーや社会、環境の影響によって経営、競争、価値創造のあり方が変化する中、リーダーが洞察力を持って新たな機会を捉え、目前の課題を乗り越えていけるよう支援しています。
MIT Sloan Management Reviewの「Big Ideas」について
MIT Sloan Management Reviewの「Big Ideas」の取り組みは、急速に変化するビジネス環境を抜本的に転換するさまざまな課題について、革新的で独創的な研究に取り組んでいます。シリコンバレーのスタートアップ企業から多国籍企業にいたるまで、さまざまな組織で活躍する最前線のリーダーを対象として、世界規模の調査や詳細なインタビューを行い、変化するパラダイムや、それが人々の働き方やリーダーシップに及ぼす影響について理解を深めています。
タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)について
タタコンサルタンシーサービシズは、世界の様々な業界を牽引する大手企業からデジタル変革およびテクノロジーパートナーに選ばれています。1968年の創業以来、最高水準のイノベーション、卓越したエンジニアリング、カスタマーサービスを提供してきました。
タタ・グループの伝統を礎とするTCSは、お客さま、投資家、従業員、そして地域社会に長期的な価値を創造することに注力しています。世界55カ国に60万7,000人を超えるコンサルタントを擁し、世界180カ所にサービスデリバリーセンターを擁するTCSは、世界各地でトップ・エンプロイヤーに認定されており、新技術を迅速に適用・拡張する能力を活かしながら、お客さまとの長期的なパートナーシップを構築し、適応力のある企業への成長と変革を支援しています。こうした関係は数十年にわたり継続し、1970年代のメインフレームから現在のAIに至るまで、あらゆるテクノロジーサイクルを乗り越えてきました。TCSは、人々の健康、サステナビリティ、さらに地域社会のエンパワーメントの促進に重点を置き、TCSニューヨークシティマラソン、TCSロンドンマラソン、TCSシドニーマラソンなど、世界で最も権威ある14の都市マラソンおよび耐久レースをタイトルスポンサーとして支援しています。2025年3月31日を期末とする会計年度において、TCSの連結売上高は300億米ドルに達しました。
TCSの詳細についてはwww.tcs.comをご覧ください。