株式会社カインズ
「世界一のオフショア開発体制」を目指すグローバルなワンチーム作り
顧客の購買体験の向上と事業基盤の整備を拡大
「世界を、日常から変える。」というビジョンを掲げ、全国に展開するホームセンターやオンラインショップを通じて、消費者のくらしに寄り添った新たなライフスタイル提案を行う株式会社カインズ。デジタルを活用したサービスの高度化を目指して2019年にデジタル戦略本部を設立し、開発の内製化方針を打ち出した同社は、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(以下、日本TCS)の提案を採用。2020年の日本でのスモールスタートの成功を経て、自社リソースの一部としてTCSのリソースを活用することで、顧客の購買体験の向上につながるアジャイルな開発体制を確立しています。
課題 | 導入後 |
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顧客のニーズに迅速に応える開発のスピードアップ | 開発の内製化とアジャイル開発を実現 |
開発を促進するためのエンジニアの確保、開発体制の強化 | カインズとTCSリソース(インドオフショア・オンサイト)とのワンチームの開発体制を確立 |
自社ビジネスやニーズを理解したエンジニアの育成 | アジャイル開発のみならず、カインズのビジネスやインド・オフショア現場など、カインズとTCSが相互理解と一体化を深め、サービスの高度化をさらに促進 |
背景・課題
1989年の設立以来、ホームセンター業界のトップランナーとして、消費者のくらしを出発点としたさまざまな商品やサービスの提供を通じて、新たなライフスタイル提案を行うカインズ。現在は全国に239の店舗を展開し(2024年3月現在)、オンラインショップの売上げも順調に拡大しています。
2019年を第3創業期と位置づける同社では、競争が厳しさを増す市場環境を踏まえ、同年7月にデジタルを活用したサービスの高度化を担う新たな組織としてデジタル戦略本部を設立しました(現在、情報システム事業部とEC事業部に発展的再編)。情報システム事業部 事業部長の長尾秀格氏は次のように振り返ります。
株式会社カインズ
情報システム事業部
事業部長
長尾 秀格 氏
「ホームセンター業界はITの導入がまだまだ遅れている状況でしたが、当社はお客さまの購買体験をよりよいものに変えていくためにデジタル戦略本部を立ち上げ、具体的な取り組みを開始しました。そこで重要なテーマとなったのが、お客さまのニーズに迅速に応えるための『開発の内製化』と『アジャイル開発の実践』です」
同社が目指したのは、外部のベンダーに依存しがちな開発案件のイニシアチブをカインズ側が握り、かつ短いサイクルで新機能をリリースしていくための開発体制づくりでした。このためには新たなリソースが必要となると同時に、アジャイル開発の豊富な経験やグローバルの知見を備えたパートナーの支援が不可欠です。そこで選ばれたのが、同社におけるアジャイル開発の初めての成功体験とも言える「Find in CAINZ(売り場・在庫検索アプリ。2020年リリース)」の開発プロジェクトに参画した日本TCSでした。
取り組み
「Find in CAINZ」の開発プロジェクトに続いて、内製化プロジェクトにおいても日本TCSをパートナーに選定した理由について、長尾氏は次のように説明します。
「現在、日本国内ではエンジニア不足が深刻で人件費も高騰しており、100名以上の大規模な開発体制を長期にわたって維持していくことは困難な状況です。インドに豊富なオフショアリソースを有するTCSさんであれば、こうした要求にも柔軟に応えてくれる点は大きな評価ポイントでした」
同様に、情報システム事業部 システム開発統括部 統括部長 兼 プラットフォームサービス部 兼 ビジネスソリューション部 部長の磯道善和氏も次のよう話します。
株式会社カインズ
情報システム事業部
システム開発統括部 統括部長 兼
プラットフォームサービス部 兼
ビジネスソリューション部 部長
磯道 善和 氏
「カインズでは、外部に丸投げするような委託開発ではなく、すべての開発案件は当社側のオーナーシップで進めたいと考えていました。日本TCSさんとは、グローバルプロジェクトの豊富な経験と知見を持つインドのメンバーと、オフショア開発を補完、推進する日本のメンバーが、当社のビジネスを理解した上で社員と一体となって動くワンチーム体制をつくることを合意できた点は大きかったです。2020年からスタートした当社と日本メンバーによる共同開発体制において小規模なオフショアリソース活用に取り組み、2021年に初のODC(Offshore Development Center)を現地に設立できたのも、お互いの理解と信頼関係があったからこそです」
“日本国内ではエンジニア不足が深刻で、長期にわたって大規模な開発体制を維持することは困難です。豊富なオフショアリソースを有するTCSさんであれば、こうした要求に柔軟に応えてくれる点は大きな評価ポイントでした
株式会社カインズ 長尾 秀格 氏
効果
内製化を支えるオフショアを活用したハイブリッドリソースの確保と同時に、カインズが日本TCSの支援に大きな期待を寄せていたのがアジャイル開発でした。
「Find in CAINZの成功体験は、当社にとって新鮮なものでした。それ以前は要件定義から開発、テストまでをウォーターフォール型で実施していたため、すべての機能がそろわないとサービスインできない状況でした。日本TCSさんの支援でアジャイル開発の経験を積み重ねることで、以前とは比較にならないスピードでサービスインできるようになりました」(磯道氏)
実際の開発の現場では、アジャイル開発のフレームワークであるスクラムを導入し、プロジェクトオーナーを含むカインズのメンバーとTCSのオフショア・オンサイトのメンバーでスクラムチームを構成。MVP(Minimum Viable Product)の考えに基づいて提供する機能の単位を最小化することで、以前は1カ月に1回が最短だったECサイトなどの新機能リリースのサイクルが、現在は2週間に1回のサイクルにまで短縮されています。
もう1つ、カインズのビジネス理解に基づくワンチームとしてのマインドを醸成し、開発現場のチームワークを強化するための取り組みからも成果が生まれています。
「半期ごとに開催する全員参加のオールハンズミーティングでは、当社のCDO兼CIOがビジネスの状況やデジタル戦略の方針、さらには情報システム事業部の考え方などについて、TCSのシニアマネジメント層を含む総勢約300名のプロジェクト関係者と共有しています。また、チームの自発的なレベルアップを促すためにアジャイル開発で高い成果を上げているチームのミーティングに他チームのメンバーが参加する機会を設けるなど、メンバーの関係性が堅苦しくならず、楽しく、ポジティブに仕事に取り組める環境づくりを心がけています。この他、当社のメンバーがインドのODCを訪問してオフショアメンバーと交流し、逆にインドのオフショアメンバーを日本に招いて当社の実店舗を見学してもらうなどの人材交流も、ワンチームのコミュニケーション強化につながっていると思います」(長尾氏)
こうした取り組みが功を奏し、デジタルを活用して顧客の購買体験を向上するための環境は着実に整備されてきました。
開発体制は、ODCスタートの2021年でカインズとTCS(オフショアと日本)全体で130名、オフショアと日本の比率は2:8だったものが、2024年現在、全体で約310名、比率は5:5となり、オフショア・オンサイトともに体制と開発規模は拡大しています。
今後の展望
日本TCSとのパートナーシップから生まれたこうした成果を受けて、長尾氏は今後の取り組みについて次のように話します。
「これまではお客さまの利便性を高め、売上げに貢献するECサイトなどの機能を優先的に開発してきましたが、今後は事業の収益性を高めていくための基幹システムの機能も見直していく必要があります。お客さま向け、そして組織の基盤という両軸で開発を進めることで、ビジネスの成長に貢献していく考えです」
また、磯道氏は開発現場の視点から「今後はマイクロサービスなど新たな開発手法にもチャレンジしていきたいと考えています。マイクロサービスの手法によってチーム全体が小さなサービス単位で連携しながら高度化に取り組める、柔軟な開発体制を目指していきます」と抱負を語ります。
2023年1月にインドのODCを視察した際、他社が実践する最先端のオフショア開発の現場を目にしたメンバーからは、「カインズでも将来的にもっと大規模な『世界一のオフショア開発体制』を構築できるのではないか」という声が聞かれたといいます。カインズのオーナーシップのもとワンチームのアジャイルな開発環境が整備され、新たな購買体験の提供を加速するフェーズに入った同社にとって、日本TCSの支援はますます重要な意味を持つようになっています。
設立:1989年
本社所在地:埼玉県本庄市
資本金:32億6,000万円
売上高:5,423億円(2024年2月末)
店舗数:239店舗(2024年3月現在)
事業内容:ホームセンターチェーンの運営
URL:https://www.cainz.co.jp/
※本事例の内容は2024年8月現在のものです。
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