本連載の第1回では、グローバルケイパビリティセンター(GCC)がAI時代の競争力を自社に蓄積する新たな経営モデルであることを、第2回では、GCCの構想において経営が意思決定すべき3つの論点を解説しました。
しかし、方向性が定まっても、運営モデルの決定やロケーション戦略、人材の確保・定着など、実行計画へ落とし込む段階で新たな壁にぶつかる企業は少なくありません。
第3回では、日本企業のGCCに精通する日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社(日本TCS)のマノジ・バルギースが、構想を実行計画へつなげるTCSの支援アプローチを解説します。
私自身、長年GCCの実行支援に携わってきましたが、日本のお客さまからの相談は、「GCCとは何か」という基本的な問いから、「立ち上げにどの程度の期間が必要で、いつ運用を開始できるのか」といった具体的な実行方法へと変わってきています。特に多いのは、人材の確保・定着、オペレーティングモデル、サービス提供拠点、お客さま企業がTCSの拠点と円滑に協働できるか、の4点です。
お客さまが最初に挙げるのは、質の高い人材を確保できるか、遠隔地の拠点をどう運営・管理するか、社内のケイパビリティが限られるなかで全体をどう管理するか、いつまでサービス提供者に頼り、どうすれば自立して運営できるのか、といった懸念です。ただ、その背後には、対象業務の範囲やオーナーシップ、ガバナンス、拡大に向けた準備状況といった本質的な論点が隠れていることが少なくありません。対話を通じて、お客さま自身がまだ言語化できていない課題を明らかにすることも、TCSが提供できる価値の1つです。
業界による違いもあります。金融業界ではGCCの活用がグローバルで進む一方、製造業界では構想段階に入ったばかりの企業が多く、オーナーシップの所在や運用の複雑さ、拡大の方法、遠隔地を含めた全体管理、パートナーからの自立に向けた体制構築が主な論点です。
これらの論点を整理する軸が、第2回で紹介したScope(何を)、Scale(どこまで)、Speed(いつまでに)の「3つのS」です。まずScopeに合意し、そのうえでScaleの目標とSpeedを定めます。TCSは、IT部門にとどまらず、業務、研究開発、エンジニアリングまで含めてお客さまが実現したいことを確認し、スモールスタートから段階的に拡大する道筋を描きます。
TCSは、GCCのライフサイクルを「アドバイザリー」「セットアップ」「オペレーション」「トランスフォーメーション」の4つのフェーズに分けて支援しています。各フェーズは、お客さまの成熟度や選択する運営モデルによって重なり合うこともあります。
特に重要なのが、第1フェーズのアドバイザリーです。このフェーズでは、お客さまの主要なステークホルダーの参画のもと、3~6カ月をかけて、直近のビジネス目標や将来のビジョン、優先課題、着手のタイミングを見極めるディスカバリー活動を行います。
もっとも難しいのはスコープの定義です。どのサービスをいつから提供し、どの人材やスキルを自社内に残すのか。GCCありきではなく、アウトソーシングや両者を組み合わせた形態とも比較し、事業目標や統制、リスク、スピードの観点から最適な進め方を検討します。この議論はTCSの主要なコンサルティング・アーキテクトが主導し、目的、サービス範囲、運営モデル、実行の方向性を整理します。あわせて、準備状況や実現可能性、着手時期の妥当性といった成熟度を評価し、ビジョンと現状のギャップを踏まえたブループリントを作成します。検討範囲が広がりすぎた場合は、関係者間で方向性を再確認しながら計画を具体化します。
ロケーション戦略もこのフェーズで検討します。インドのオフショア拠点、近隣国のニアショア拠点、コスト効率の高い日本国内の拠点などの選択肢から、人材の確保のしやすさ、言語面の要件、コスト、規制要件、事業継続性、日本との距離、そしてお客さまの事業目標全体に照らして判断します。規制要件など専門的な知見が必要な領域は、パートナー企業とも連携して確認します。
運営モデルも、アドバイザリーのフェーズで決めます。TCSが各モデルの仕組みと責任の分担を説明し、お客さまが採用するモデルを選択します。モデルは、TCSがGCCを構築・運営し、軌道に乗った段階でお客さまへ移管する「BOT(Build-Operate-Transfer)」、TCSの支援を受けながらお客さま主導でBOTを進める「Assisted BOT」、ライフサイクルの段階ごとに異なる形態を組み合わせる「Hybrid」の3つです。どのモデルを選ぶかは、予算、お客さまが担いたい責任の範囲、GCCで計画する業務の範囲、社内承認の見通し、全社戦略によって決まります。なかでも重要なのが、取り組みを後押しする経営層、いわゆるスポンサーの存在です。スポンサーは戦略的な方向性を示して予算を確保し、部門をまたぐ課題を解消しながら、取り組み全体の推進力を維持します。
GCCの新規設立の場合は、ブループリントをもとに、フェーズごとに順を追って一貫して支援します。セットアップでは、現地法人の設立、施設やクラウド環境の準備、初期メンバーの採用、サービスレベル(SLA)の取り決め、日本式の業務手法や日本語の研修などを進めます。オペレーションでは、サービスを順次移行してAIを活用した運用を取り入れ、あらかじめ定めた基準を満たしていることをPoC(概念実証)で確認して本格稼働へ移ります。トランスフォーメーションでは、AIや自動化による高度化を進めます。BOT型では、お客さまへの移管が構築・運営を経てたどり着く最後のマイルストーンです。トランスフォーメーションは、合意したモデルに応じて移管の前後を問わず継続できます。
150~200人規模まで段階的に拡大する場合、立ち上げ期間はインドの大都市で11~12カ月、地方都市で14~15カ月程度が目安です。ただし、これはあくまで目安であり、対象範囲や拠点、採用規模、現地法人の準備状況、お客さまの意思決定のスピードによって変わります。
既存拠点の高度化では、お客さまの現在の段階に応じて、該当するフェーズからTCSが参画します。AI駆動型ソリューションの導入や拠点の移転ならトランスフォーメーションから、運用をTCSに移管したい場合はオペレーションから支援します。まず成熟度を評価し、運営モデルを再検証したうえで、対象を絞った高度化を提案・実行するため、新規設立とは異なる工数や時間がかかることもあります。オペレーションのみ、トランスフォーメーションのみといった特定フェーズの支援も可能で、その場合、合意した範囲外の意思決定や事業目標はお客さまが引き続き担います。
TCSは選択したモデルで合意した範囲の立ち上げと業務遂行に責任を持ち、お客さまは戦略的な方向付け、ガバナンス、承認を担います。BOT型では立ち上げと初期運営の期間はTCSが責任を負い、Assisted BOT型ではTCSは各フェーズを支援しますが、オーナーシップは持ちません。いずれのモデルでも、GCCの最終的なオーナーシップはお客さまにあります。詳細な役割分担は、合意したガバナンスとRACI(実行責任・説明責任などの分担表)で定めます。
会議体の運営、変革の推進と社内外へのコミュニケーション、リスクや課題への対応、事業計画に対する成果の追跡は両社が共同で担う領域であり、開始時点で合意しておくことが重要です。KPIや意思決定の権限、報告経路も初日から定め、四半期ごとの経営層会議、月次の運営会議、週次の定例という経営・運営・デリバリーの3層で進捗を管理します。
インドには「日本企業専用デリバリーセンター(JDC)」があり、約12年にわたり日本のお客さまを支えてきました。日本TCSは、日本企業のビジネスへの深い知見とグローバルでの経験を併せ持ち、日本とインドの拠点が一体となってサービスを提供できる点が強みです。
TCSは、製造、ライフサイエンス、金融などの業界別の専門組織と、インフラ、アプリケーション、エンジニアリングなどのサービス領域別の専門組織をグローバルに展開しています。これらを連携させ、グローバルの人材・知見と各拠点のデリバリー能力を組み合わせるのが「グローバル・ネットワーク・デリバリー・モデル(GNDM™)」です。
たとえば、日本の自動車業界のお客さまから技術分野の相談を受けた際には、グローバルの専門組織やCoEチームのベストプラクティスを紹介し、日本の市場環境やお客さまの状況に合わせて適用方法を検討しました。産業機械分野でも、自動車・産業機械向けのソリューションパッケージをGCCの仕組みと組み合わせて提供しています。
GCCは単なる業務集約拠点ではなく、将来の価値創出やイノベーションにつなげる経営の取り組みです。人材の確保、技術の高度化、既存システムの刷新といった課題にGCCを活用すれば、現在のビジネスモデルを維持しながら将来の成長を支える基盤を整えられます。GCCを基盤にAIを活用した変革を進めることは、日本企業がグローバル市場で飛躍する契機にもなります。
日本TCSは、GCCの構想から実行、運用、変革までを一貫して支援します。どの業務から着手すべきか、どの運営モデルが自社に適しているのか。GCCの構想を実行へ移す第一歩として、まずはアドバイザリーのフェーズから日本TCSにご相談ください。
※本記事の内容は2026年10月現在のものです。