イベントレポート
TCS-Databricks共催 Data & AIセミナー
〜AI時代に求められる“使えるデータ戦略”〜
企業が持続的に成長するためには、AIの戦略的な活用が不可欠です。しかし、多くの企業がその導入と展開においてさまざまな課題に直面しています。
こうした背景を踏まえ、2025年10月に、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社(以下、日本TCS)は、データブリックス・ジャパン株式会社(以下、Databricks)との共催 で、「AI活用が欠かせない時代背景の中、効果的な導入に必要なデータ戦略」をテーマとしたセミナーを開催しました。
本稿では、両社のエキスパート達が講演した、AI活用を成功に導くための要諦と取り組みについて紹介します。
セミナー冒頭では、日本TCSの専務執行役員でAIサービスやコンサルティング事業を率いる森 誠一郎が登壇。タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)がグローバルで実施したAI活用に関する調査結果を基に、「AIを導入した多くの企業の経営者が、AIがビジネスに与えるインパクトを実感できていない」と指摘しました。
人事や財務といったバックオフィス業務を効率化するためにAIを利用するケースがグローバル展開の例を見てみると、一部の先進企業を除けば、AI投資が直接的な事業成果に結びついた例はまだそう多くありません。森は、グローバルで共通するAI活用の課題として、以下の4つを挙げました。
こうした課題がある一方で、AIは意味理解の段階を超え、自律的に判断・実行し、知識を連携する時代に進もうとしています。今回のセミナーでは課題2.データガバナンスに焦点を当て、ますます重要性が増すAIを、より効果的に活用していくための道筋が語られました。
森は、「従来は、データを貯めるデータレイクや目的別のデータウェアハウスなどを分けて管理・運営していたため、データレイクとデータウェアハウスに大量のETLを繋いでバッジ処理することで複雑化し、コストも相当かかるという状況でした。そこから一歩進むためには、非構造化データや構造化データ、AIに学習させるデータを全て一元管理し、自由に検索できるようなデータレイクハウスと、そのアーキテクチャが必要です」と今後のAI活用に向けて説明。Databricksのように、データレイクハウスのアーキテクチャを形にしているパートナーと、当社の知見を活用いただくことで、AIによりお客さまの全社的な価値創出を支援することが可能な点についても述べました。
続いて、日本TCS AIクラウド統括本部 クラウド&データ本部 本部長の小島 英剛が登壇。
AI時代におけるデータ基盤の重要性について「鮮度の高い、正しいデータを使わなければ、AIは間違った判断をしてしまう可能性がある」と強調。さらに日本特有の課題として、以下の5点を指摘しました。
こうした課題への対応として当社が提供するのが『リファレンスアーキテクチャ』です。企業がAI活用を進めるうえで、どこから手をつけるべきか、何を考慮すべきか、全体像を明確にするための地図ともいえます。リファレンスアーキテクチャに基づいてAIを導入することで、標準化、再現性、透明性を担保しつつ、データ活用を推進できる、と小島は強調しました。
さらに小島は、AI導入において、人材や予算の不足、ガバナンス不全といった課題を指摘。課題策として、外部サービスを活用したハイブリッドなアプローチや、組織の中で共通言語を持ち、統制していくガバナンスの必要性を訴えました。AIを活用した当社のアクセラレーターソリューションや、Databricksとのグローバルパートナーシップを通じて、顧客企業のAI・データ活用を支援していることをアピールし、セッションを締めくくりました。
続いて、日本TCS AIセンターオブエクセレンス本部 AIビジネスコンサルタントの吉川 秀之が登壇。長年のITコンサルティング経験とAIエージェント導入プロジェクトを推進してきた知見を基に、AI活用の具体的な課題とその解決策、特に「整備されたデータをどのように活用していくのか」というモデル活用に焦点を当てて解説しました。
冒頭で、2022年に生成AIが登場して以来、TCSが多岐にわたる企業のPoCを支援してきた実績を紹介。特に今年は本番環境で使ってみようというお客さまが増え、AI導入フェーズが進展している傾向にあることを述べました。
そして、これまでの経験から得られたAI導入の主な3つの課題と解決策を解説しました。
1. ステークホルダー間のAIに関する認識の齟齬:ビジネス部門がAIに期待することと、システム部門がAIでできることに差がある
解決策:従来のシステム導入の考えに加え、AIの特性を理解した上で活用することが重要です。まずは、業務とAIのことを解像度高く理解し、AIで対応できる業務を見極める。そして、ビジネスとシステム部門が同じ目線で対等に責任を持ち、ワークショップなど活発に議論をする場をつくり、AIリテラシーを向上させていく。そして、導入しやすい業務からAI活用をはじめ、成功体験を重ね、実績を積み上げていくことが大切です。
2.データやモデルが散在し、AI活用の準備が整っていない: データやモデルが分散・属人化しており、会社・部門としてナレッジが溜まらない
解決策:データからAIまで1つのプラットフォームで対応可能なDatabricksのようなプラットフォームを活用することが有効です。これにより、社内で散在していたデータを一元的管理できるようになり、AIの活用が進みます。
3.コスト管理やガバナンスを管理しつつ、手軽にAIを始める仕組みがない:スクラッチでAIのソリューションを構築するために必要なAI専門家の人材が足りていない
解決策:社内のAI活用を一元管理しながらスモールスタートすることが成功への一手です。当社では独自のスターターキットも用意し、お客さまのAI活用をご支援しています。このスターターキットでは、セールスグループやHR部門といった組織単位でワークスペースを作成し、各部門が独自のAI活用を進めることが可能で、複数のLLM(大規模言語モデル)を選択できる点が特徴です。要件定義からリリースまで3ヶ月で実現可能と、その導入の速さと柔軟性も強みです。
吉川は、「今回紹介した解決策以外にも、当社にはTCSがグローバルでもつAIフレームワークなど幅広いソリューションがあります。これらを用い、お客さまの効果的なAI活用促進をご支援します」と結びました。
最後にDatabricks フィールドエンジニアリング本部長の佐藤 聖規氏が登壇し、生成AI時代にDatabricksのプラットフォームがどのようにデータとAIの統合運用を実現し、顧客に価値を提供しているかを具体的に解説しました。
佐藤氏はDatabricksが提供するサービスについて、「データからどのように知見を得るか、そしてそれをAIにどう活用していくか。それらの点を強みとするデータインテリジェンスプラットフォーム」と説明。
AI活用について「シンプルな対話や学習した知識しか使えないとハルシネーションの問題などを解決できません」と課題に触れたうえで、RAG(検索拡張生成AI)によって企業固有の情報を活用できるよう進化し、「複数の情報を組み合わせて人間並みの業務遂行が可能になっていく」と、RAGの有効性や未来への期待を語りました。
さらに佐藤氏は、Databricksが提供するAgent Bricks(Agentic AI)について、現在開発中のものも含め4つのエージェントを紹介しました。
カスタムモデルや主要な生成AIモデルにも対応しているDatabricksについて佐藤氏は「幅広い選択肢の中からAIモデルを選び、ガバナンスを効かせながら企業内で活用できる」とDatabricks導入のメリットについて言及。「日本TCSのように、リファレンスアーキテクチャをもっているような強力なパートナーは、まだまだ少ない現状です。当社とTCSのグローバルでの豊富な知見により、今後もお客さまのデータ・AI活用を推進していきたい」と締めくくりました。
本セミナーを通じて浮かび上がったのは、「AIの導入」そのものではなく、データを起点とした基盤整備やパートナーとの戦略的な取り組みが企業の成長を左右するという共通認識でした。こうしたデータの統合活用によって企業変革を推進する力となるでしょう。
TCSは、Databricksとグローバル規模で強力なパートナーシップを締結しており、DatabricksのGlobal Elite Partnerとして、200以上のお客さまへの導入実績や、7,000名以上のトレーニング済みエキスパートを擁しています。世界でトップレベルのデリバリー能力も評価され、2025 Databricks Delivery Excellence Partner of the Yearも受賞しました。今後も、Databricks社との協業により、企業のAI活用をご支援していきます。